固定化しないのは隙である

――ひとつのワザの練習に時間をかけることは珍しくないのですか?

新しいワザに挑戦するときは初成功までに5時間、安定させるまでに10時間が基本ですね。

マリオオデッセイの総プレイ時間が5000時間だとしたら、クリアまで通しでプレイしたのはだいたい1000時間くらい。あとは個々のワザの細かい隙を無くす練習に費やしています。

――細かい隙とは?

多くのプレイヤーは一連の操作について90%まではマニュアル化できても、残り10%は惰性でやってしまうことがあると思います。動き始めの目印などだけしっかり決めて、あとは感覚でやる、というように。

ただ、その10%の不安定さが失敗のもと、隙になります。

クッパの壁のぼりは視聴者を楽しませる「魅せプレイ」としてやったのでまだ不安定でしたが、自分のRTAで採用するワザについては100%の固定化を常に目指しています。最初から最後まで、どのタイミングでどのように動くかを完璧に覚えてからプレイするようにしているんです。

操作の早さなど、地力ではほかのプレイヤーに劣る面もあるので、準備段階でできるかぎりのことはやっておかないと、世界のプレイヤーには敵いません。

――トップ層で戦うための武器、ということですね

もう一つ特技と呼べるものがあって、頭の中でマリオの動きやマップをはっきりと再現できるんです。

――……お話がすごすぎて、ちょっとついて行けていないのですが

例えば、自分が失敗したプレイを頭の中で何度も再現してミスの原因を探したり、思いついたことをすぐ脳内シミュレーションして新しい短縮要素を見つけたりできます。もちろん、イメージしたあとは実際のプレイでも試しますが、頭の中でできたことはだいたい実現できるんです。

――イメージトレーニングの精度がとても高い、と。日常生活に影響は出ないんですか?

壁と壁に隙間を見つけたら「ここはマリオが壁ジャンプできそうだな」と思うことや、スーパーとかの買い物で最短ルートを考えてしまうことはよくあります。

あと、マリオオデッセイは1秒間にボタンを7つも押す操作が求められたり、コントローラーを振ったりすることが多いんです。腱鞘炎になるので、日々のストレッチはかかさないですね。