スケートと恋は似ている。地に足のついていないあの感じ
恋をしたときに「恋に落ちる」という表現がよく使われる。正確なことはわからないけれど、おそらくこれは英語の「fall in love」の直訳だろうと思う。でも、考えてみてほしい。恋をしたからといって、どこに何が落ちるのだろう。心(理性?)が落とし穴(深い谷?)に落ちて、はい上がることもできない、自分ではどうすることもできない、そんなイメージだろうか。まあ、そう言われたらそんな気もしないでもないが、恋のあの感じにはもっとしっくりくる表現はあるような気もする。
待望のアルバムがリリースになったブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるユニットSilk Sonic。夏頃からよく耳にした楽曲「Skate」は、’70年代ソウル・ミュージック・テイストの大人のラブソングで、歌詞は「君は10セント硬貨でいっぱいの部屋の中の100ドル札さ」「もし美しくいることが罪なら君は塔に閉じ込められるだろうね」といった独特な甘い言葉で始まり、「俺は頑張って、君にいいところを見せようとしてる。恥ずかしがらないで、この手を強く握って」と次第にローラースケートへと話題が移り、「こっちに滑っておいで、君のことをもっと知りたいんだ」というサビへと続いていく。
’70年代、街にはローラースケート場というのがあって、そこを舞台にした恋の音楽や映画もあった。今そこに目をつける彼らの“エモい”センスも素晴らしいけれど、「ローラースケートで滑る感じ」と、「恋をしたときの地に足がついていない感じ」が、表現として絶妙にリンクしていて素敵だ。スノボ、スキー、アイススケート、都会の大雪の日の朝でも何でもいい。誰もが一度くらいは、足の裏が滑るあの感じを経験したことがあると思う。思いどおりに進めないし止まれない。誰かにつかまりたくなって何でもないところで転んでけがをしてしまう。これらはどれも誰もが身に覚えのある最良の恋のメタファーではないだろうか。この曲がヒットしたのは、もしかしたらそんなところにも理由があるのかもしれない。
「Skate」 Silk Sonic
Warner Music
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