ついに肉体が悲鳴を……

コロナ禍でも、毎日3時間近く氷の上に立って、厳しいトレーニングを続けてきた。他にダンス、バレエ、フィジカルトレーニングとメニューもハードだった。筋肉を極限まで使い、動きが鈍くなったのを感じつつ、曲かけ練習でボロボロになり、そこから体力回復途上で成長を確認した。自分を追い込み、限界を広げるような取り組み方だ。

「試合がいつあるかわからず、予定があっても本当にあるのか、モチベーションの維持は難しかったです。そこで新しい練習環境にも飛び込み、毎日のように筋肉痛になって。挑戦が本当に正解なのか、わからない中でも集中してやってこられましたし、それで試合を迎えられることが自分の強みかなって」

しかし2020年4月、世界フィギュアスケート国別対抗戦のフリー演技が終わった後、肉体が限界を超えた。

「昨日、朝から腰を痛めてしまって」

国別対抗戦前日、公式練習後のリモート会見に応じた紀平は、努めて明るい声で話していた

「左足(のケガ)をかばってループとかすごく跳んでいて、痛みが出ているのは気づいていたんです。おとといまでは無理がきいていたのが、昨日でアウトになっちゃいました。着氷の振動で痛みが出たので、無理をしないように。痛みの出ない動きを意識した練習をしていますが、どんな動きも腰は使うので」

屈託のない声音で説明するので重大事に聞こえなかったが、実際は緊急事態だった。荷物を落として拾おうとすると、強い痛みが出たという。アイシングし、湿布を貼って、消炎鎮痛剤を飲むしかない。休養が最善の処方箋だが、目前に戦いが待っていた。

「(腰の)アクシデントは自分でも驚きましたが、しっかり練習してきた中での、ネガティブな事故ではなくて。これも与えられた経験というか、必要な学び、試練と捉えています」

結果は69.74点で4位。不調の中でやり切ったスコアだ。しかしSPが終わって約15分後、彼女は腰に震えるような痛みを感じていた。しばらく立ち尽くし、歩けないほどだった。とても4回転やトリプルアクセルどころではない。

十分、棄権もあり得た状態だったが、FSのリンクにも決然として立った。トリプルアクセルは回避も、得点の高いルッツを入れた。チームジャパンに貢献したい、その一心だった。3回転ルッツは、意地で成功した。しかし3回転フリップ+2回転トーループは転倒し、スコアは132.39点で5位だった。

――今の自分に何と声をかけるか?

その問いに、紀平はこう答えている。