記者にとっての「天国」をつくろう!

――そんな従来型のアクセスジャーナリズムから一線を画して、縦割りや担当範囲、ルーティン取材をなくし、調査報道(独自調査によって問題を発掘・報道していく手法)に特化した「特別報道部」をつくったという話も『朝日新聞政治部』には書かれています。これはかなり革新的だったのでしょうか。

鮫島 斬新な試みだったと思います。「週刊文春」の元記者だった松田史朗さんのアイデアがとても参考になりました。もともと、記者の仕事を息苦しくつまらないものにさせている要素を全部取り除いて、記者にとっての理想の職場をつくろうと思ってできた部署だったからね。幸い、当時は社内的にそれなりに力があったから実現できたわけだけど。

さっきも説明したように、記者は常に担当範囲が決まっていて、常に仲間外れを恐れているセコイ仕事になってしまっているんですよ。それはおかしいでしょう。別に、他社がすべて書いているネタを独自判断であえて載せなくても良いわけですから。

持ち場とノルマがあるために他社に「抜かれる」恐怖に怯えるんだったら、そもそも持ち場やノルマをなくしてしまえばいい。年功序列も会議も、そういう新聞記者の仕事を面白くなくさせているものを全部やめて、記者にとっての理想郷をつくろうと思ったんですよ。

ルールは「大スクープしか狙わない」という、ただそれだけ。外れがあっても良いと思っているんですよ。中途半端なものを集めてもしょうがないから。一個、特大ホームランが出ればそれだけで十分だと思って。

1年間で成果を上げられずに1本も原稿を書かなくても悪い評価はつけないし、元の部署に絶対に人事で戻す、一切心配するなと約束しました。上司からの仕事の発注もないし、会議もない。

あと二つ重要なのは、キャップとデスク。企画発案者がキャップ(チームリーダー)になれる。この部署ではチームをつくらないので、年功序列も関係ない。たとえ1年目でもキャップになれる。

仲間については、欲しければ発案した人間が自分で口説いて募るという風にしました。先輩でも後輩でも関係なく、一緒にやろうよと。誰も乗ってきてくれなければ、たぶんそのネタが面白くないんだろうということで(笑)。

そうするとそのうち、自然発生的にチームができるんだよね。「この話、面白そうだから協力しよう」といって、個々の記者が自発的にテーマを選んで取り組むようになってくれた。

そして、これは絶対にやった方が良いと思って僕がこだわったのが、記者がデスクを選べる制度。普通、デスク(上司)って一方的に決められちゃうでしょう。「お前はこのデスクの班」って。僕はその制度が大嫌いだった。だから完全自由競争制にして、デスクを記者が自由に選べるようにしました。ただしデスクの側にも拒否権があって、お互いの希望が一致しなければならないということで。

デスクは僕も含めて4人いるから、4人に拒否されたらそもそもネタが面白くないんだろうと。でも、良いネタで一生懸命口説けば、1人くらい関心を持つはずだということでね。

……ということでやってみたら、もうみんな働く働く!

――「減点法」や「強制」という発想をなくしてしまったんですね。

鮫島 最初は戸惑う記者も多かったですよ。記者って、基本的に発注されたことをそつなくこなす天才ですから。普通、新聞記者はみんな記者クラブに所属していて、朝起きたら記者クラブに行って発表を取材したり、あるいは担当の政治家とか役人がいるから、朝回りで行く場所が決まっているんです。

でも、特別報道部ではいっさいのノルマもない。朝起きて毎日が自由で、何をしても良い。「会議もないから、別に会社に来なくていいよ。家で寝ていてもいいから」って僕は言いましたからね(笑)。

――究極、寝ていてもいい(笑)

鮫島 映画を観に行ってもいい。ネタはどこに転がっているかわからない。なんならパチンコに行っても良いよ、何やっても良いよ~って言ったら、もう最初の1か月や2か月ぐらいは不安で仕方がなくて、何をしていいかわからない、ノイローゼになりそうだっていう人がいっぱいいました。

それは記者の仕事が「与えられた課題をこなす」ことばかりになっちゃっているから。10年も20年もそういう仕事をしてきているからですよ。いま新聞が面白くない原因もここにあると思っています。起きたことを傍観的に書くことばかりやっているから、自分はこれを伝えたいという情熱が無いんだよね。だからどこかつまらないんだと思う。