本年のアカデミー授賞式は、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が国際長編映画賞を受賞する快挙。授賞式のトリを飾る作品賞に、聴覚障害者の両親と高校生の娘の葛藤を描いた『コーダ あいのうた』が受賞して、映画界における益々の多様性を印象づけた。
祝!『ドライブ・マイ・カー』
村上春樹の短編小説が原作で、すでに内外で多くの賞を獲得している本作。西島秀俊が演じる喪失感を抱えた演出家の家福が、地方で専属ドライバーとして雇われた運転手と交流するうちに再生に向かう物語。冒頭の家福と妻のセックスシーンに大いに驚いた私。妻が何やらミョーな物語を語りながら事に及ぶという官能の表現。そして彼女の突然の他界。ここまでは割にスピーディに進むが、残された家福と運転手の旅路は、長々と丁寧にその心の内を解き放つまで続いていく。両者とも、寡黙。画面に大写しになる運転手役の三浦透子など、あまりに口数が少ないせいで、タバコを喫う仕草の方が印象深いほどだ。
だが、この芸ある寡黙の表面に隠された彼らの心の機微を、観客はじっくりと味わうことになる。人は上辺や言葉で分かりあうものではない。反面、飾りを払った言葉、それは手話も含めてのコミュニケーションの大切さもある。なぜなら家福の再生もまた、そこから始まったのだから。観る人それぞれの受け取りがある懐深い作品だ。