多用な学び方がある社会になってくれたらなあ
──ある子どもが、「勉強は好きだけど、ノートに書くだけの勉強は好きじゃない」と言っていてはっとしたんですけど、子どもの中には座学が向いてない子や、屋外で体を動しながらの方が知識を習得しやすい子もいる。座学中心で、教室で騒ぐな、静かにしろ、記憶しろというシステムに合わない子が絶対数いて、『ゆめパのじかん』のパンフレットにも書いてありましたけど、今、不登校のお子さんが日本には20万人近くいるという。この20万近い子どもたちにそれぞれ、ゆめパのような空間がなく、放置されているのってもったいないというか、何とかならないかと思います。
「来年からこども家庭庁の活動も始まりますし、子ども基本法の施行もスタートするから、これからですよね。多様な学び方がある社会になってくれたらなあと思います。みんな横一線でヨーイドンで同じように詰め込み式で勉強させられ、そこからこぼれていった人たちが、自分の意思で将来への選択肢を見つけていけるのか、そうではなく生きるためにしょうがなく、わかりやすく給料の安い仕事とかに従事して行く道をいくのか。今、大学まで行けた人たちしか選択肢がないような感じで。
でも、もっと早い段階から、体を動かすのが好きだから建設現場の仕事をしたいとか、モノ作りに従事する職人になるとか、好きな分野を勉強して極めて研究者になるとか、いろんな選択があるよと提示できる社会になっていかなくちゃいけないと思うんです。従来の横一列の競争型の社会で溺れていって、自己肯定感も下げて、きゅうきゅうしながら生きるんじゃなく、社会の意識が『こんな学びもあるよ』『こんな経験をしたらいいんだよ』って子どもたちに言えるようにしないといけない」
──この作品を見た知り合いの新聞記者の方が、フリースペースに通っている子どもたちの考えを聞いて、「すごくしっかりしているのに、なぜ学校にはいけないんだろう」とぽつりとつぶやいていたんですけど、重江監督はそのことについて彼らに聞いたりしましたか?
「『なんで学校に行かないの?』っていう聞き方はしないんですけど、ここと学校は何が違うのとは尋ねました。それは僕自身の疑問でもあるし、知りたいことでもある。まあ、撮影を開始してだいぶ後になってから、ある子から、『重江さんはなんで映画をやってるんですか?』と逆に聞かれたんです。その問いかけをされた時は嬉しかったですね。頼りにされているかどうかは分からないですけど、ちょっと意見を聞いてみたい大人のリストの1人に入ったんやなあって。
そのときは、僕は10代後半でイラク戦争があって、それがきっかけで報道ジャーナリストになりたくて、それでカメラを持ち始めたという話をしましたね。現地ではいっぱい悲惨な映像が流れるけど、全然戦争なんて終わらない。なくならねえなら、俺が映画で変えてやろうみたいな、そういう話をしましたね」
──高校に行かないという選択をした子どもたちがフリースペースで学ぶ中、高等学校卒業程度認定試験、通称、高卒認定を取って、次のステップを目指す姿も記録に取られていますよね。こういう道もあるんだよと、あれはフリースペースの先生たちが指導されているんですか?
「いえ、子どもの方から自分で取りたいと言いますよね。同世代の周りの子が高卒認定の勉強を始めたりすることがきっかけになるみたいです。映画の中に、虫が大好きな少年が出てきますけど、ああいう感じでずっと屋外で虫を観察して学んでいる子がいれば、勉強に追い付かなくて悩んでいる子もいる。木工制作から興味を持って建築関係への夢を見つける子もいれば、好きなことをして生きて行きたいから、高卒認定を取ろうという決断をする子もいる。そういう世代間の連なりみたいなものが、ゆめパにはすごくありますね。
僕がゆめパに通う中でよく見たトラブルって、通い慣れていない子がルールがよくわからず、我を通そうとするときですけど、そういったとき、年齢的には中学生、高校生のお兄ちゃん、お姉ちゃんが『いや、こういう時はさ』と出てきて、仲介してくれたりする。そういう複合的な年齢の在り方がいいと思います」
──大工仕事に興味を持つ子は、前出の木工制作で自分の椅子を作って、失敗するという体験をして、学んでいきますよね。あと、同じく木工制作で、鳥のオブジェを作る子が出てきますが、最終的には素晴らしい作品を作っていて驚きました。
「ゆめパだけじゃなく、家に持って帰っても作業をしているので、次に会ったときにはめっちゃ進んでいるんですよ。あれはバードカービングというんですけど、最終的にあるコンテストに入選して、賞をもらっていました。やっぱり子どもって好きなことと集中が重なるとすごい威力を発揮する。でもね、ぼくは、なにかやりたいことが見つかんなくても良いって思うんですよ。将来何をしたいって聞かれて、すぐに答えられる子ってそういないですよね」