本作は表情をしっかり描きたかった
――過去の読み切りと比較すると絵柄に変化がありますね。
タイザン5 今回は表情をしっかり描きたかったので、描き込みを頑張ろうと思いました。線画はGペンを中心に、丸ペンも使って描いています。
F田 タイザン5先生は明暗を描き分けるバランス感覚がいい作家さんというイメージです。
タイザン5 背景も含めた画面演出が好きなので、このページは明るく、暗く、というのをネームの段階でなんとなく考えていました。実際の描写はアシスタントさんの力をお借りしているところが大変大きいです。
決まっていたのは“対しずかの会話”まで
――タコピーの無邪気さと状況の深刻さの対比もそうだと思うのですが、絵でもお話でも明暗差が残ります。こうしたコントラストが読者を引きつけたものと思いますが、お話の道筋はどう決まっていったのでしょうか?
タイザン5 プロットの段階で、話数ごとにメインでやることを決めていました。それをもとにネームを描いていきます。例えば、5話は東くんを出す回、あとは兄vs弟などです。15話で“対しずかちゃんの会話”をすることまでは決まっていました。
タイザン5 4話までは連載開始前に描き終わっていました。8話までネームが終わった状態で連載開始したのですが、最後のほうはあまり詳しく決まっていませんでした。
F田 担当としては少し反響を見てから決めたいなと思っていました。4話掲載後の年明けに打ち合わせしましたね。
タイザン5 フワッとしか決めていなかったので、そろそろ確定させよう、と打ち合わせを設定していただきました。決まらないとネームに時間がかかって作画の時間が削られてしまいそうだったので。自分は1週間のうちネーム2日、作画5日くらいの時間で描きたいと思っていました。
F田 ある程度プロットが見えていればネームは早かった印象です。
――連載中のやり取りで印象に残っていることはありますか?
F田 作品の公開が始まってからお電話したときに、「画面が小さいからコマを減らしたほうがいいかもしれないですね」という話をしたら、すぐに反映されていて「すごい!」と驚いたのが印象的です。「ジャンプ+」だと文字数が多いページで離脱されてしまうというデータがあるんです。
タイザン5 最初のほうは少しコマが多かったと思います。コマを減らして、吹き出しを大きくというのと、スワイプしたときのインパクトはなんとなく意識しました。ただ基本的にA4見開きでネームを書いていたので、単行本化して見開きで見られても問題ないようになっているといいなと思います。
――タイザン5先生が描写で影響を受けているものはありますか?
タイザン5 映画だと『トレインスポッティング』が好きです。あとはサスペンスが好きで、犯罪を描いたものとか。そういうものと子ども向けのコンテンツとをミックスしているような感じです。アニメも好きなので、セリフなどで影響を受けているかもしれないです。
――サスペンスチックなものと、ポップな描写が組み合わさって印象的なコントラストになっているということなのでしょうか。ちなみにタコピーが映像化されたときのイメージはありますか?
タイザン5 恐れ多くて考えたこともないですが……上巻の販促で作っていただいたPVは本当に素敵でうれしかったです。
F田 BGMの不穏なキラキラ星が秀逸でしたよね。
「ジャンプ+」の作風は自由
――SNSでの反響では「ジャンプ」という媒体名とのギャップに驚く声が多かったように思います。どういった方針なんでしょう?
F田 自分は新人ですし、代表するようなことは言えないのですが。「ジャンプ+」に配属されたとき、先輩に「うちの作風とかないよ、自由だから」と言われたことが印象に残っています。ジャンプっぽい、そうじゃない、というのはあまり意識していないですね。
タイザン5 自分は特に媒体にこだわりなく、有名なところと思って「ジャンプルーキー!」に投稿しました。編集の方に必ず読んでもらえるので、担当についていただきやすいのではというイメージもありました。
F田 方針という意味では、作品の無料公開は盛り上がりを共有してもらうため、という面もあります。タコピーはそれに乗っかった作品ではありました。
――「ジャンプ+」全体の話でいくと、好きなページでTシャツをつくる機能がありますね。
F田 あれの人気ページとかがわかると面白いですよね。
タイザン5 気になりますね……!
F田 「殺さなきゃ」のところとか案外人気かもしれません。
――ここまでお話をうかがってきて、純粋に作品の魅力が注目を集めたということがよくわかりました。そうすると次回作により期待してしまうのですが、次の構想はありますか?
タイザン5 まだ特に思いついていないです。またアイディアが見つかるといいなと思っています……!
かつてない盛り上がりを見せた『タコピーの原罪』だが、あくまでも自然体に作られた作品だったようだ。著者の次回作にも期待せざるを得ない。
(終わり)
前編はこちらから
取材・文/宿無の翁
撮影/長谷部英明