落選を機にモチベーションがアップ

この時以降、ユズのオーディションに向かう姿勢は一変した。セリフ覚えはスピードアップし、容赦ない母からのダメ出しにも、以前よりは耐えられるようになった。数か月後には得意分野のコマーシャルで大きな仕事を取り、久しぶりに現場も経験。コロナ禍で100%自宅オーディションとなってからも、モチベーションを保ちつつ踏ん張った。

そして2020年の秋、Netflix配信の外国ドラマの英語吹き替え版オーディションがエージェントから送られてきた。オーディション用のシーンはふたつでセリフも長くはなかったけれど、ストーリーを把握しにくい台本だったと記憶している。

我が家の場合、声のオーディションテープはいつも、雑音が入りにくい車の中で携帯電話のボイス機能を使って録音する。この作品では、「親子の普段の会話」に加え「怖いものが襲ってきている様子」をとるようにと指示があった。狭い車内では、想像力さえ働かせれば恐怖や絶望は意外と表現しやすい。それに声が漏れないので思いっきり悲鳴も上げられる。私は、トラウマが残りそうなほどの怖い状況をユズに想像させた。結果、かなりリアルな演技ができたのかもしれない。

数日後、仕事をブックしたとの連絡があった。吹き替えであろうが「初のネトフリ!」である。ようやく次のステージに進めた気がした。

その段階ではまだタイトルを知らされていなかったが、後にその作品は、韓国ドラマ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』(2018)だとわかった。人間が怪物に変身してしまった町で、高校生たちが血みどろのサバイバル劇を繰り広げるという内容だ。

ハリウッド子役が直面する天国と地獄。我が子がNetflix全米1位ドラマに出演するまで_8
Netflixシリーズ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』独占配信中


ユニバーサル、ワーナー・ブラザース、ディズニーなどの大手スタジオや古くからの音響スタジオが立ち並ぶ街、バーバンクで録音は行われた。コロナ禍によるロックダウンの解除から半年以上経ち、エンタメ業界も恐る恐る再開し始めたような時期だった。スタジオには、アシスタントとエンジニアがひとりずついるのみ。監督はリモートで演出をするという流れだった。

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『Sweet Home-俺と世界の絶望-』英語吹き替え中のユズ

録音当日、ほぼ同時進行で本編を見たユズは、衝撃の内容に圧倒されながらも、何とか全エピソードを撮り終えた。大人でもギョッとするような映像が続く作品だ。サンプル映像を見ていた私は、ホラー映画をほとんど見たことのないユズにとって怖すぎやしないかと内心ドキドキしていた。ところが、休憩室に戻ってきたユズによると、監督の要求に答えるのに必死で、怖いと感じる心の余裕はなかったらしい。

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吹き替えで訪れたNetflixのスタジオで、過去に関わったタイの人気ドラマ『転校生ナノ』のポスターを発見
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センス抜群のインテリアで飾られたスタジオを半日独り占めにし、ユズは大満足で吹き替えの初仕事を終えた。数か月後に配信された『Sweet Home -俺と世界の絶望-』は、全米1位の快進撃をくり広げた。私がドラマのストーリーに夢中になれたのは、作品のクオリティはもとより、ユズがキャラクターをうまく演じられたということの証だろう。

オーディションに何度落ちようと、たまに訪れる「BOOKED!」の知らせが、次のステージに気持ちを向けさせてくれる。次にお仕事ブックするのは、うちの3人の子役たちの誰だろう。

『Sweet Home -俺と世界の絶望-』

ハリウッド子役が直面する天国と地獄。我が子がNetflix全米1位ドラマに出演するまで_11

Netflixシリーズ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』独占配信中

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