人気漫画を描くための知られざる努力
――『ゴールデンカムイ』は映画や絵画などのパロディやオマージュが多いとされていますが、漫画からはほとんどないとおっしゃっていました。そのこだわりは?
パロディにするにはちょっと狭いからですね。担当の大熊さんは、僕との打ち合わせで、某ヒット漫画のエピソードを例えで出してくるんですけど、僕は読んでなくて全然わからないんです。
年齢がそんなに離れていなくても、通ってきた漫画はぜんぜん違う。
それがもう、十代、二十代の読者となるとどんどん離れていく。そのうち大ヒット映画だって通じてこなくなる。細分化されすぎて、同じ娯楽を共有する時代じゃなくなった。なので、もう今後はパロディをやめようと思っています。
――ゴールデンカムイ展に展示されている野田先生の資料はごく一部と聞いています。他にどんな物があるのか具体的にお聞きしたいです。
二十八糎榴弾砲や雷型駆逐艦の大きな模型ですね。駆逐艦は全長1メートルあります。
すべて真鍮の特注品で、模型作家さんが作ったものです。
本当に繊細で、万が一壊したら嫌なので、展覧会には出したくなかったんです。
けれど、こんなにゴールデンカムイ展が大盛況なら出しておけばよかったかなと少し思いました。古いマキリもたくさんあって、作中で出していれば展覧会に出せたんですが。
――ほとんど自分で買われたものですよね? 相当な金額になりますね。
全部投資ですね。アイヌの資料だけでも、沢山の工芸家の方たちから総額でいうと数百万円は自腹で購入しています。アイヌの文化を描かせていただいているのでその文化を伝えている方たちに、ピンポイントで還元したいという思いもありました。
僕にとって作品作りにおける経済的な問題は非常に大切なことです。
もちろんヒットしなくてスッカラカンになる可能性は大いにありました。前作がそうでしたから。あちこち自費で取材に行って、アイスホッケーの防具も自費で買い集めて、仕事場も借りて机など備品も揃えて、アシスタントさんも集めて、それで打ち切りですからね。
それから『ゴールデンカムイ』を準備して、連載が始まる頃には貯金も底をついていました。どこの世界も弱肉強食ですよ。