イギリスで過ごした少年時代、コインを発掘!?
気になるのは、これだけの美術品を有している菊川氏は、一体何者なのかということ。歴史好きな父親と、世界史の教師だった母親に育てられたこともあり、幼いころから歴史や遺跡に親しんでいたという。小学3年生からはロンドンに住み、大英博物館やヨーロッパ各地の遺跡巡りに足を運んでいた。
当時居住していた地域には、年に一度サーカスがやってきたそうで、「友だちが持っていた金属探知機で、来場者が落としたコインを探して遊んでいました。考えてみると、そのころから“発掘”していたんですよね」と笑う。そして、帰国の道すがら寄ったエジプトで、現地の遺跡や美術品との出会いが待っていた。ギザのピラミッドや、ツタンカーメンの黄金の棺に心を奪われ、中高生のころはエジプトにまつわる展覧会によく行ったそうだ。
展覧会を見る側から、見てもらう側へ
けれど、大学では応用物理を専攻し、就職先は金融関係と、一転、エジプトとは縁のない生活をしていたという。そんな中、縄文土器や弥生式土器を入手し、ある日、勾玉が買えると訪れた古美術店でエジプトの美術品にひと目ぼれ。
「少年時代、金属探知機で遊びながらも実感していたんですよ。どんなに探しても、コインですら簡単には見つからないものだって。探索する大変さを知っていたからこそ、発掘されたものに惹かれる部分はあったと思います」
手に入れたものが、どんな時代のもので、どんな目的で使われていたのか。その背景を分析する“バックグラウンドスタディー”に楽しさを覚え、どんどんと古代エジプトの沼にハマっていった。そんな中、一度金融業界を離れた際、遺物の分析で出会った教授の勧めで化学を学ぶことに。1年間、教授のもとに通って学会発表や論文と格闘ののち博士課程後期に入学し、その後は再び金融の仕事をしながら博士号を取得した。
『古代エジプト美術館』をオープンしたのも、博士論文の研究をしていたころだという。
「以前は、展覧会に行かせてもらう側でしたが、これだけ多くのものが集まったんだから、今度は自分が人に見てもらう施設を作る番だな、と。そんな思いが、美術館創立のきっかけでした」