「リスクを取れ」「勇気を持て」という話が何度も出てきた

木村 大野さんは、オシムさんのご家族との人間的なお付き合いも深かったんじゃないでしょうか。

大野 オシムさんにお会いしたときには、まだエージェントになりたてで、日本サッカー界の中では最年少代理人でした。「やってやるぞ!」みたいな気持ちが強かったんですが、それ以上に、オシムさんとの対話の中で「リスクを取れ」「勇気を持て」という話が何度も出てきて、それにはすごく影響を受けました。

この先の十数年にわたってサッカー界でやっていく自信とか、気持ちをいただいたという気がしますね。オシムさんの取材に同席して、話しているのを聞いているだけでも、いろいろなメッセージがどんどん自分の中に蓄積していきました。

木村 やっぱりサッカーを超える存在だったんだなという気がします。オシムさんは、たまたま自分の職場がサッカーだったので、ボスニアで3つの民族が融和した「ユーゴスラビア代表」をきっちりと残そうと動いた。

先日、テレビの取材でこんな質問をされました。「ロシアのウクライナ侵攻について、オシムさんだったら何て言ったでしょうか」と。オシムさんだったら「それを聞く前に、日本人のお前はどう思うんだ?」と、返してきたと思います。そして「お前は何をするんだ?」と。

だから、「それぞれの職場で、生活の場で、自分ができることがあるということを、彼は身をもって示してくれた」という話をしました。

オシムさんの言葉というのは、日めくりカレンダーにするような「語録」ではなくて、実践を伴っていたからこそ、説得力があったのだと思います。

名将オシム氏はなぜ、レアルやバイエルンを断り日本のジェフを選んだのか_2
ベストセラー『オシムの言葉』の著者であるジャーナリストの木村元彦氏(左)。ジェフ千葉の監督として来日した2003年よりオシム氏を取材

大野 その通りですね。