しんどそうなくらいが、やる気が出る

溝口健二監督『夜の女たち』をオリジナルミュージカルに。長塚圭史の新たな挑戦_3
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2023年には、黒澤明監督『蜘蛛巣城』(1957)を上演予定。演出するのは、映画監督としても『葛城事件』(2016)で高い評価を受けた赤堀雅秋。同作は2001年に齋藤雅文の脚本・演出で上演されており、このときの脚本をもとに再演する。もともと同作は、シェイクスピアの『マクベス』を戦国時代に翻案しており、舞台との親和性は高いが、時代劇初となる赤堀に託したことで、予想だにしない展開が待ち受けていそうだ。

「赤堀さんが黒澤を手がけるのは名案だなと思って、僕からオファーをしました。どんな作品でも赤堀さんの世界観がある。戦国時代を舞台にしたこのシェイクスピアを原作とする作品と向き合ったときに、赤堀さんの中で何が起こり、どんな人物造形をするのか? 面白いじゃないかと思いました」

この2作だけではない。近年の長塚は日本演劇史及び映画史を掘り起こすかの如く、旧作の舞台化を積極的に行っている。北条秀司の戯曲で、1948年に阪東妻三郎、1962年に三國連太郎、さらに1973年に勝新太郎でも映画化された『王将』。残念ながらコロナ禍で延期となってしまったが、『富島松五郎伝 〜無法松の一生〜』。その代わりにと、山中貞雄監督&大河内傳次郎主演で1933年に映画化された『盤嶽の一生』の朗読を、長塚の潤色・演出でライブ配信した。

「『無法松の一生』が好きなんです。特に阪東妻三郎さんと園井恵子さんのコンビが。もともとは江口のりこさん出演で上演する予定がコロナ禍で延期になってしまった。そんなときに眺めていたのが山中貞雄のシナリオ集で、読み語りに使えるなと『盤嶽の一生』を上演しました。日本には素晴らしい戯曲、素晴らしいシナリオがあってそれも財産。それらの作品に触れると自分が今、なぜここに立っているのかを考えさせられるんです。それに今、映画化するのは大変だけど演劇にするのはアリかなと思って。作り手として色々な表現に取り組んでいきたいという思いは常にあって、やるのが大変そうだなとか、しんどそうだなというくらいの方が、やる気が出ます(笑)」

次はどんな作品が長塚の手によって現代によみがえるのか。期待しかない。


取材・文/中山治美 撮影/石田壮一 構成/松山梢

ミュージカル『夜の女たち』は9月3日〜19日、舞台『蜘蛛巣城』は2023年2月〜3月、KAAT神奈川芸術劇場にて上演。以降、全国ツアーあり。
9月7日(水)〜16日(金)には、溝口健二監督作品を中心とした映画上映会も。詳しくはHPをご確認ください。

KAAT神奈川芸術劇場
https://www.kaat.jp/d/yoruno_onnatachi