五輪で得た充実感
北京五輪、彼女は存分に滑った。
「アクセルを跳ぶことは一つの目標だったので、挑戦できてよかったと思います」
北京五輪、すでに団体戦での銅メダル受賞に貢献していた樋口はそう話した。シングルのショートプログラムでも冒頭のトリプルアクセルを成功。五輪でトリプルアクセル成功は、女子シングル史上5人目(他に伊藤みどり、浅田真央、長洲未来、カミラ・ワリエワ)の偉業だ。
「(トリプルアクセルを)跳べるようになってから、だいぶ時間が経ちますが、最近はすごく力を入れなくても、跳べるようになってきました。そこは練習の成果なのかなと。
ただ、他のジャンプやスピンで、絶対落とさないレベルのところをミスで落としてしまったのは、頭で考えて滑り過ぎたからかもしれません。点数は全然よくないです。アクセルを跳べたことよりも、もったいないミスをしてしまって悔しいです」
彼女はそう語ったが、5位発進は立派だった。
フリースケーティングでも、樋口はトリプルアクセルを成功させた。ルッツ+トーループで転倒し、「スピードが出ず、足が止まった」という緊張や疲労もあった。しかしトータル214.44点は自己ベストで、総合5位で入賞だ。
「イライラって言うか、『なんで!』って気持ちでした」
そう言って失敗を悔しがるあたりは彼女らしかったが、その一方で充実感も得ていた。
「(最後の五輪の気持ちで挑むと言ったが)毎日いろんな経験ができて、すごく楽しい人生の中の3週間でした。多くの人が経験できないことをさせてもらって。
『メダルを考えず、自分が納得できる演技を』と思っていましたが、色々な競技の人から刺激も受け、『頑張ってメダルを取りたい』って思うようになりました。4年後にできることを増やし、強くなってこの舞台で滑りたいと思います」
”最後の気持ち”で挑む気概があったからこそ、次の世界の扉を開けられたはずで、開いた扉の先でさらなる意欲が湧いた。