――世界中の映画人や映画ファンからリスペクトされるポール・トーマス・アンダーソン監督の新作で銀幕デビュー、おめでとうございます! 今の気持ちを教えてください。
ありがとうございます! 日本にも監督のファンはたくさんいると思うのですが、日本人が俳優として起用されるのは初めてなんです。『インヒアレント・ヴァイス』(2014)には日本人の寿司職人が登場しますが、あの方は本物の職人さんなので。だから俳優として、『リコリス・ピザ』でスクリーン・デビューできたことが本当に嬉しいです。
――初めて完成した映画を見たときの感想は?
プレミア上映会の少し前に、俳優のための試写会で初めて見たのですが、主だったキャラクターを演じたキャストの枠である“Featured Cast”として最後のクレジットに入れていただいたのをスクリーンで見たときは、言葉にならないほど嬉しかったですね。とてつもないプレゼントだなと思いました。
もちろん映画は最高でした! きゅんとして、自分の昔を思い出させてくれるような作品で、誰もが登場人物の誰かに共感できるし、感動しました。渡米してから10年間、大変なこともあったけれど報われたなという思いです。
――安生さんが演じるのは高級日本料理レストランのオーナーの日本人妻、キミコ。監督のパートナーで俳優・コメディアンのマーヤ・ルドルフさんの義母であるジャズシンガーの笠井紀美子さん(本作にも出演している)と同じお名前という共通点もありますね。短いシーンではありますが、かなり強く印象に残るキャラクターです。
最初に台本を読んだときから強い女性という印象はあったのですが、事前に準備していったのは、もう少し人間味があると言いますか、笑顔も見せる人物という感じで考えていました。ですが、現場で監督に言われて、いくつものパターンのリハーサルとテイクを重ねながら、たっぷり半日はかけて、最終的には非常に個性的な人物を作り上げていったという感じです。オーディションとは全く違うキャラクターになったので、これがアンダーソン監督の演出の面白さだなと思いました。
――ほかに監督のこだわりを感じた点はありましたか?
衣装は4つぐらいパターンがあって、試着の際にベージュのドレスと1970年代らしいカールのあるヘアスタイルに決まりました。ですが、撮影当日現場に行くと、すべてリハーサルが終わってカメラチェックをしているところで、監督が「めぐみ、ちょっと着替えてくれる?」と。急遽浴衣を着ることになり、急いでヘアをチェンジしていただいて自分で浴衣を着ました。少し焦りましたが、日本舞踊をやっている経験が生きたなと。直前になっても、監督のビジョンを忠実に表現するというのは、私の経験からするととても贅沢なことで、小さなシーンにもこだわりを持つ監督らしさを感じました。