――「ルーフ ミュージアム」のこけら落としとして個展が開催されることになった経緯を教えてください。
2019年に原宿の「GALLERY TARGET」で開催した「Express More with Less」と、2020年に渋谷の「SAI」で開催した「The Last Supper」というふたつの個展があるんです。そこで展示した作品をまとめた作品集を作りたいという思いはずっとありました。なんとなく動いてはいたんですが、どこでどう形にするかは決めていなくて。そんな中、今年の1月に「ルーフ ミュージアム」のオーナーから声をかけていただいたんです。とはいえ準備期間が半年もなかったので、新作だけでこれだけの空間(2階のギャラリーは面積70坪、天井高4メートル)を埋めるのはちょっと難しい。そこで、進行中だった作品集「Express More with Less」のお披露目会としてこの場所を使わせてもらおうと考えたんです。
2階に飾ってある作品は、ほとんどコレクターさんの手元にあったものを、個展のために一時的に貸していただきました。僕の手を離れていたので、こうしてまた会えたことは個人的にも本当にうれしい。ちょっとずつ描き方とかも変わってきているので、改めて見直してみると「こんなふうに描いてたんだ」という発見もありました。
――変化した描き方とは?
なるべく線を増やさないという基本はベースにあるんですけど、どういうふうに線を入れていくかは、おもしろいことにそのときの気持ちでだいぶ変わったりするんです。たとえば、初期の頃は眉毛と鼻をT字で表現していたんですけど、最近では目と鼻を離して描いたり、そもそも眉毛がなかったり。自分なりに試行錯誤しています。
――そもそも、このシンプルな線画が特徴の作風は、いつ、どのように生まれたのでしょう?
このタッチになったのは2014年から。それまでは色彩があったり、もうちょっとキャラクターっぽかったり、いろんなバリエーションがあったんです。当時はTシャツのグラフィックデザインの仕事をやめて独立し、食べていけるくらいにはなっていました。でも10年後とかを考えたときに、自分の色みたいなものがないまま、果たしてやっていけるのかなあということは感じていて。もっと自分らしさを出せるものを作らなきゃと思って辿り着いたのが、今の作風です。元々は裏で隠し持っていたタッチで、「僕はいいと思うけど、周りはどう思うのかな」と思っていたものだったんです。