AI攻撃リスクがまだ株価に織り込まれていない
さらに市場への影響も無視できない。世界の株式市場は、AIによって企業の生産性が上がり、利益率が改善し、新しい需要が生まれることを織り込もうとしている。
半導体、データセンター、電力、通信へ巨額の資本が流れ込む。しかし、AIで効率を高めた企業が、同じAIで攻撃される側にもなるという現実は、まだ十分に株価へ織り込まれていないのではないか。
大規模な情報漏えいやシステム障害が起きれば、企業は調査、復旧、補償、訴訟対応に追われる。顧客が離れ、取引先が契約を見直し、保険料やセキュリティー投資が増える。さらに、金融や物流のような社会の基盤に影響が及べば、1社の問題で終わらなくなる。
市場は攻撃そのものよりも、「どこまで広がるか分からない」という不確実性を嫌う。サイバー攻撃が続けば、企業のリスク評価、投資判断、資本コストにまで影響する可能性がある。
これは、AI関連株が上がるか下がるかという話ではない。AIを使うことで得られる利益と、AI時代に増える新しいリスクを、投資家が同時に評価しなければならなくなるということである。
人間がAIを悪用するだけで、社会は傷つく
10月15日、G7の財務当局はAIを利用したサイバー攻撃を想定した演習を行う方針を決めた。私はこの事実を重く見る。金融システムの防衛を、各国が机上演習の対象にしなければならない段階へ入ったからである。
AI企業の研究者が危険を警告し、政府が演習を始め、企業や自治体が情報漏えいを公表する。これは、別々のニュースではない。AIの能力が、経済と安全保障の境界を曖昧にし始めたことを示している。
#1(「AI関連株を買えば儲かる」はもう古い…35年市場を見てきた国際的投資家が語る「これから本当に上がる企業」の条件)で私は、AIは投資対象ではなく、資本主義そのものを書き換えると書いた。
#2(〈AIが株式市場を支配する日〉本当に怖いのは「暴走」ではない…AIによって市場が人間以上に非合理的になるワケ)では、AIが株価を決める「意思なき相場」の恐怖を書いた。
#3では、AIを作る人間自身が危険を訴え、開発競争から席を立つ現実を書いた。
今回、私はその先にあるものを書いておきたい。AIの脅威は、人類の終わりという遠い未来だけにあるのではない。冷凍庫を熱し、病院の予約を止め、企業の顧客情報を奪い、金融や物流への信頼を揺るがす。その一つ一つが、すでに経済の現実になり得る。
AIが暴走しなくてもよい。人間がAIを悪用するだけで、社会は傷つく。AIに意思がなくてもよい。人間の意思を、機械の速度と規模で実行できるなら、それだけで脅威になる。
だから、私たちは「AIが人類を滅ぼすのか」という問いだけに目を奪われてはいけない。問うべきなのは、AIを使った攻撃が社会の隅々まで届く前に、企業と国家が守るべき仕組みを作れるのかである。













