戦後の民主化の達成

明治民法の「家制度」が戸籍の「同一戸籍同一氏」という考え方と関連づけられて以来、戸籍は単なる家族の登録簿であることを超えて、「家」に関わる「イデオロギー」の根拠として使われてきた。現在の政権が主張する「夫婦同姓」の主張もそのひとつである。しかし、「個人を特定する」という行政手続き上の戸籍の原則から考えれば、ある個人が結婚により姓を変えようが、それまでの姓を持ち続けようが、それを戸籍に登録し、それに基づき個人を特定すればいいだけの話である。

法務省のホームページの「選択的夫婦別氏制度(いわゆる「選択的夫婦別姓制度」)について」のところに、「別氏夫婦の戸籍の記載例」というのが載っている。それを見ると、夫婦が別姓になっても、これまでの戸籍の書き方とほとんど変わらない。単にこれまで夫婦のどちらかが姓を変えて同じ姓で登録されていたものが、異なる姓で登録されているだけである。

上記法務省のホームページ「選択的夫婦別氏制度(いわゆる「選択的夫婦別姓制度」)について」より、「別氏夫婦の戸籍の記載例」
上記法務省のホームページ「選択的夫婦別氏制度(いわゆる「選択的夫婦別姓制度」)について」より、「別氏夫婦の戸籍の記載例」
すべての画像を見る

これだけのことで、多くの女性が改姓に関わる煩わしさから解放され、しかも「旧姓の通称使用」に関する無駄な行政手続きが不要になるのである。さらにそのことで、戸籍は「家制度イデオロギー」として機能することをやめる。

先に述べたように「夫婦同姓」は、明治民法による「家制度」と紐づけられて成立した。それゆえ、「夫婦別姓」を選択できるようにすることは、戸籍制度の原則を男女共に適用することにより、個人の「姓」を「家制度」から解放するであろう。これにより、「家制度」を解体するという、戦後の民主化のための改革が初めて達成されることになるのである。

文/中村敏子

選択的夫婦別姓はなぜ日本を変えるのか
中村 敏子
選択的夫婦別姓はなぜ日本を変えるのか
2026/7/17
968円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4087214208
【「家制度」の開始から約130年。突破口はここにあった!】
明治期に始まる「家制度」により夫婦は同じ姓を名乗ることとされた。そして今でも多くの女性が結婚により改姓を迫られている。戸籍と民法が作るこの構造は、夫婦間だけでなく、日本社会全体でも男性優位の状況を作り出してきた。この現状をどう変えていけばよいのか。
福沢諭吉やホッブズを専門とする著者が、政治思想的アプローチをもとに、フランスの婚姻制度なども参照しつつアクチュアルな問題に迫る。「選択的夫婦別姓」をめぐる議論が進む今、必読の一冊。

◆目次◆
第一章 女性差別の問題をどのように考えるか
第二章 江戸時代
第三章 明治から第二次世界大戦時までの変化
第四章 終戦から現代までの変化
第五章 女性をめぐる現在の問題(1)――「戸籍」
第六章 女性をめぐる現在の問題(2)――「性別分業」
終 章 どのような社会を作るか――「ユートピア」の意味
amazon 楽天ブックス 丸善ジュンク堂書店 セブンネット TOWER RECORDS 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon