国策として海外展開を後押しした「和牛」
政府は2013年に策定した「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」で牛肉を重点品目に位置づけた。2012年に51億円だった牛肉輸出額を2020年に250億円まで引き上げる目標を設定している。
2025年の日本産牛肉の輸出額は過去最高の731億円に達した。13年間で14倍に増加している。
欧米の高級ステーキは赤身や熟成などに価値を置く文化が強い。肉本来の旨みを楽しむ文化が形成されていた。和牛のように極端なまでのサシが入った牛肉は珍しく、明確な差別化要因があったのだ。
日本政府はJETROなどを通じて現地のレストランやシェフ、加工業者などに向けて試食会やPR活動を続けてきた。そうした地道な努力が実を結び、和牛は特別感のある食べ物として、海外で定着していった。
和牛の中でも神戸牛は圧倒的な知名度を獲得している。神戸牛は明治期の開港以来、その評判が海外に広がっていった。実際に公式に輸出されたのは2012年だが、すでに歴史あるブランドとしてその地位を確立していたのだ。多くの観光地で神戸牛を強調した店が並んでいるのはそのためだ。
インバウンド向け飲食店の高価格化は、日本人からすると典型的な観光地価格に映る。しかし、所得水準や為替、海外の外食価格まで考慮すれば、外国人観光客から見える景色はまったく違う。むしろ自国とさほど変わらない価格で、本場の和牛を味わえる店として魅力的に映っている可能性がある。
訪日客数が増え、円安が続けば、日本人と外国人の適正価格の隔たりは鮮明になるだろう。インバウンド飲食店は、世界と日本の物価に対する感覚のギャップを象徴しているのかもしれない。
取材・文/不破聡













