指導者にとって、ディフェンス指導のほうが結果が出やすい

現時点ではまだ構想段階だと伊藤は断ったうえで、こう付け加えることも忘れなかった。

「指導者のみなさんの日頃の努力や今まで築き上げてきたことを否定するつもりはないんです! ただ、世界レベルの選手を育てたいと思ってくださるコーチのメンタリティや意志を変えることができないかと考えて、今、色々と(指針や仕組みを)作っています」

育成年代にこだわるのは、プロになってから世界基準の取り組みを始めても、限界があるからだ。選手としての基礎を作る時期から世界基準を目指す取り組みをしないと、究極的には、追いつくことはできない。

育成年代の課題として象徴的なのが、チームワークをめぐる伊藤の指摘だ。

本来、チームワークは勝つための“手段”のひとつにすぎない。ところが日本では、いつの間にかチームワークを高めること自体が目的化してしまう。

「勝つために団結する」はずが、いつしか「団結すること」自体が評価の対象になってしまう。これはスポーツの現場に限った話ではなく、会議のための会議、報告のための報告に追われるビジネスパーソンなら、身に覚えのある構造かもしれない。

そんな目的意識のズレは、指導者の具体的な教え方にも表れている。

例に挙げるのは『ディフェンス』について。

「日本の指導者はディフェンス(守備)から教えたがる」

伊藤はそう感じている。その理由については、こう考えている。

「ディフェンスのほうが、結果が出やすいからだと思います。どういうことかを順に説明すると、そもそもコーチとしては自分が何かをやったことによって、チームや選手が成長するってことに、すごく喜びを感じる方が多いと思うんです。オフェンスよりも、ディフェンスを指導する方が圧倒的に結果は出やすいと思います」

「ただ……」と断りを入れてから、伊藤は語気を強めた。

「バスケットの本質を理解してないと、オフェンスは教えられないんです。指導者がクリエイティブでなければ、難しいと思います。具体的には、選手個人の素質や持っているものを全て見抜いた上で、『この選手には、このオフェンスのスキルを教えよう』としないといけない。指導者として本当にレベルの高い人でないと、オフェンスは教えられないと思います」

日本代表でオフェンスを指導するライアン・リッチマンAC(右)とシュート練習をする八村選手 写真/石田壮一
日本代表でオフェンスを指導するライアン・リッチマンAC(右)とシュート練習をする八村選手 写真/石田壮一

守備の指導は、比較的短期間で成果が見えやすく、指導者自身も達成感を得やすい。一方、攻撃は違う。とりわけ個人の得点力を伸ばす指導は、選手の資質を深く見抜く目と創造性が要る、いわば難易度の高い仕事なのだ。

だからこそ、指導者は無意識のうちに「教えやすい」守備を優先してしまう。これもまた、本来の『目的=勝つために得点する力を伸ばす』と、『手段=指導のしやすさ』が入れ替わってしまう一例だと伊藤はみている。