「ウインターカップ」で終わりではない

だから、視察を終えて帰国した伊藤は、その危機感を感想で終わらせなかった。U17W杯後にメディアを通して、育成年代の指導者に向けてあえて踏み込んだメッセージを発した。

「日本の育成年代の指導者は、今までの自分の指導を疑わなければいけないと思います」

今、あの発言の真意をこう解説する。

「日本を今後世界で勝てるチームにするためには、やはり育成年代から見直さなければいけない。もちろん、指導者の方のなかにも、色々なフィロソフィーを持ってコーチをされている方がいると思います。バスケを通して子供たちに人生の教訓を教えるだとか、楽しさを教えるとか、いろんな方がいていいと思います」

ここで伊藤が対象とするのは、教育や人格形成を主眼に指導している人たちではない。狙いを定めたのは、その先――つまり、プロや世界レベルの選手を育てようとしている指導者に対してだ。

「Bリーグで活躍する選手を育てたい、NBAで戦える選手を育てたい、世界レベルの選手を育てたいという方たちには、今までのコーチングの考え方を疑うべきではないかという強めのメッセージを出させていただきました」

八村塁選手も所属するロサンゼルス・クリッパーズとエグジビット10契約を締結した河村勇輝選手 写真/石田壮一
八村塁選手も所属するロサンゼルス・クリッパーズとエグジビット10契約を締結した河村勇輝選手 写真/石田壮一

指導のあり方そのものを否定しているわけではない。プロを目指す選手を預かる指導者に対して“だけ”、「目指す場所」を「日本一」から「世界に通用する選手、あるいは世界一」へと引き上げてほしいと求めているのだ。目的地が変われば、そこから逆算される日々の練習も指導も、すべて変わってくるはずだという発想である。

例えば、日本の高校バスケには、冬休みに開催される全国大会「ウインターカップ」という、選手たちが憧れる一つの頂点がある。伊藤はその意義を理解した上で、この大会の“天井”を引き上げるような仕組みづくりを考えている。

JBAのワーキンググループで議論している構想の一つが、ウインターカップのさらに先に、新しい舞台を用意するというアイデアだ。

「ウインターカップで日本一になって終わりではなくて……例えばですが、ウインターカップで優勝と準優勝した2チーム、日清リーグ(高校生年代のトップリーグ)の優勝と準優勝の2チームと、海外のチームがトーナメントを戦い、それで勝ったのが総合優勝というような仕組みができれば、目指すのは『日本一のその次のレベル』になりますよね」

日本のトップを勝ち取ったチームが、そこで満足するのではなく、さらに世界のチームと戦い、勝つことを目指す。つまり、指導者の目標を日本一のチームを作ることから、世界一のチームを作ることに引き上げられれば、彼らの目線も自然と変わっていくはずだと伊藤は考えている。そして、それは選手の成長に直結する。

「そういう環境ができれば、今まで日本一のチーム作りをしていたコーチのみなさんが、(世界レベルでは普通に存在する身長が)2メートルで動けるガード(*通常は背の低い選手が務める)の選手たちに対してどういうふうに攻めるのかとか、世界レベルのバスケを目指すことになります。その世界観を作れるのはJBAなのかなと考えています」