"逆算の欠如"を覆い隠す言葉
「それってスポーツマンシップなのでしょうか?」
日本バスケットボール協会(JBA)で強化委員長を務める伊藤拓摩は、バスケットボールの試合で見られる「あるアクション」について、そんな問いを投げかける。
そのアクションとは、試合中に倒れた相手選手を助け起こす行為だ。多くの人にとって、それは美しい光景に映るだろう。だが、伊藤の見方は少し異なる。もちろん、深刻なケガの恐れがあり、審判が試合を止めるような状況であれば、当然、手を差し伸べるべきだ。ここで話題に挙げるのはそれ以外のシチュエーションのことだ。
「プレーが続いている中で、対戦相手を起こしてあげるということは、5対4になる可能性を5対5にしてしまっているようなことになります。バスケットボールの目的から考えれば5対4を作って、より良いシュートを打てるシチュエーションを作らないといけない。その可能性を潰してまでスポーツマンシップを求めるのは、いつも正しいわけではないですよね」
意地悪な問いかけではない。伊藤がここで炙り出そうとしているのは、日本のバスケットボール界だけではなく、日本社会でもしばしばみられるような、思考のクセだ。
伊藤は、長崎ヴェルカの代表取締役社長兼GM(ゼネラルマネージャー)を務めながら、2025年からJBAの強化委員長、そして男子日本代表のダイレクターを兼任する人物だ。三重県出身で、中学卒業後にアメリカへ渡り、名門モントロス・クリスチャン高校からバージニア・コモンウェルス大学へ進学。卒業後はトヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)でコーチのキャリアを積んできた。
日米両方のバスケットボール界を知る指導者は、日本代表がパリ五輪で世界の壁にぶつかったあと、JBAの改革と日本代表の強化を任された。
今、彼が向き合っているのは、戦術や戦略以前の、もっと根っこにある問題意識だ。
伊藤は今年6月末から7月にかけて、U17(17歳以下)男子日本代表がトルコで戦ったワールドカップを視察している。そこで覚えたのは強い危機感だった。
「全ての面で劣っていたなと感じました。そもそもバスケットボールの捉え方が全く違うような気がしました。戦う姿勢と目的からの逆算が、日本はまだまだですね」
伊藤の言う「目的からの逆算」とは、こういうことだ。
バスケットボールの目的は、相手より多く得点すること。そのためには、より質の高いシュートを打たなければならない。
では、質の高いシュートを打つには、どんな技術や戦術が必要か。この順番で逆算して練習や指導を組み立てているかどうかが、世界と日本を分けているという。
「世界の17歳は、それをすでにやっているんです。でも、日本はどちらかというと一生懸命に頑張ることやチームワークを大切にすることに目が向いている。ただ、それらの目的は何なのか、という逆算が圧倒的に足りないと感じます」
一生懸命頑張る。チームワークを大事にする。日本で美徳とされてきたこれらの言葉を、“逆算の欠如”を覆い隠す言葉として伊藤は「名指し」する。












