閉鎖空間で取引される「男児の盗撮画像」

斉藤 先ほど話に出た盗撮コミュニティの構造は、歴史家デイヴィッド・コートライトが提唱した「大脳辺縁系資本主義」に通底していると感じます。

脳の「大脳辺縁系」とは、私たちの感情を司る部位です。大脳辺縁系資本主義とは、この脳の部位を過剰に刺激することで、消費者を依存状態に陥らせて、それを利用して企業が利益を上げる仕組みです。

SNSで「いいね!」が欲しくて、スマホをスクロールするのをやめられなくなる。派手な演出や「惜しい!」と思わせるニアミスを多用したオンラインカジノがやめられなくなる。これらも、大脳辺縁系資本主義の一例です。

永守 サービスの運営側は、こうした脳の仕組みをうまく利用して、ヘビーユーザーを意図的につくり上げる。そうして利益を得る。なんとも罪深い構図です。

斉藤 これが違法行為と結びついたときの有害性は、きわめて深刻です。

最初は「1件500円」など、お小遣い稼ぎ感覚で盗撮を始めた子どもたちも、やがて「うまく撮れるかわからない」というスリルを味わい、脳内では快楽物質のドーパミンが過剰に放出されてしまう。すると、脳は「もっと、もっと」とさらなる快楽を求めるようになるんです。さらに、「こんな動画が撮れてすごいですね!」などコミュニティ内の仲間に称賛されることで、盗撮がますますやめられなくなってしまう。加害行為に効率良くハマらせる大脳辺縁系資本主義の構図が、違法な盗撮コミュニティ内で見事に再現されているとは……なんともおそろしい限りです。

永守 盗撮コミュニティを運営している人にとって、扱っている画像や動画は自分たちの性的嗜好を満たす手段でもあり、「商品」でもあるのでしょう。

斉藤 いわば趣味と実益を兼ねた、搾取のビジネスモデルですね。

永守 以前、Xでは「どんな画像が見たいですか?」とマーケティング調査を行う盗撮コミュニティ運営者を見かけました。消費者のニーズを見きわめ、売れ筋コンテンツを戦略的に販売する。違法とはいえ、ビジネスとして洗練された手口なのだと思います。

斉藤 一般的に性被害に遭う子どもたちの男女の比率は「女児8:男児2」や「女児7:男児3」といわれています。ただ、男児の被害は表面化しづらいため、現場の肌感覚としては「女児6:男児4」といっても過言ではありません。

永守 思った以上に、男児の被害者の割合が多いですね。

斉藤 クリニックに通う小児性愛症者(ペドフィリア)たちに話を聞くと、「公衆トイレで、無防備な状態の男児を盗撮する」といった手口をしばしば耳にします。永守さんたちがパトロールをするなかで、男児をターゲットとした画像・動画の割合は、どの程度なのでしょうか?

永守 きわめて少ないですね。私が見る限り、ネット上で出回る盗撮画像・動画の9割以上が、女児をターゲットにしたものです。残酷な言い方ですが、女児を盗撮したコンテンツのほうが、「需要が高い」のだと思います。

女児の盗撮画像や動画なら、たとえペドフィリアなど特定の性的嗜好がなくても、「ちょっと見てみたい」という好奇心から、消費したり、SNS上で拡散したりする人が多いのでしょう。

斉藤 消費者の裾野が広いんですね。需要があるから販売され、拡散される。まさに市場の論理です。

永守 男児の盗撮画像や動画は、ニーズがきわめて限定的で、やり取りもペドフィリアのコミュニティ内にとどまっています。そのため、かえって外部の目は届きにくく、被害が深刻化しかねません。