「特定疾病」にも〈見直し〉が……?
今回の月額上限引き上げに関連して、高額療養費にかかわるもうひとつのトピックを紹介しておきたい。「特定疾病制度」の自己負担〈見直し〉を財務省が主張していることは、以前にも触れたとおりだ。この問題について、財務省はその後も新たな動きを見せている。世間ではあまり注目されていないようだが、重要な事柄なのであらためて注意を喚起しておきたい。
まずはこの制度について簡単に説明をしておこう。
ここで言う「特定疾病」とは血友病、HIV、人工透析を必要とする腎疾患のことで、これらの治療は高額療養費制度の多数回該当のなかでも「特例措置」として月額の自己負担が1万円(高所得者の場合は2万円)に抑えられている。
天野氏が言及していたのは、2026年4月28日に行われた財政制度等審議会の財政制度分科会で配布された資料の中に「特定の疾病についてのみ自己負担限度額を大きく抑制していることについて、見直しの必要性も含め検討していくべき」と主張するもの(同資料P33)が入っていたことを指している。
[図1:財務省「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」資料より]
この資料が配付された会議は財務省ウェブサイトで議事要旨が公開されているのみで、その議事要旨でも特定疾病に関する言及はないため、どこまで真剣に議論されたのかは判断できない。過去に行われた財政制度分科会の資料や議事録などを見てみても、特定疾病の自己負担限度額に関する記録がないことから、この4月28日の会議でいきなり登場してきたようにも見える。
財政審の資料としては唐突に見えるこの登場だが、じつは厚労省では特定疾病が話題に上がったことがある。その舞台になったのは、高額療養費制度の〈見直し〉が2025年3月に一時凍結された後に、その議論を行う組織として招集された「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」だ。
2025年12月8日に行われた第7回の専門委員会では、当日の会議に欠席をした菊池馨実委員(早稲田大学理事・法学学術院教授)が自分の意見を述べる資料を提出していた。
そこには、「高額長期疾病(特定疾病)に係る特例も含めた形で負担と給付の在り方を考えることが、受療機会の実質的平等を図り、負担能力に応じた負担という全世代型社会保障の理念を推進するうえでも必要と考えられる」等の、特定疾病の自己負担〈見直し〉を示唆する言及があった。また、この日に厚労省事務局が示した「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方(案)」(とりまとめの叩き台)にも「制度創設以降、疾病構造や治療の在り方が大きく変化していることを踏まえると、高額療養費制度における特定疾病に係る特例の在り方についても検討が必要という指摘があった』という一文が、当日欠席の菊池委員の提案とまるで軌を一にするように盛り込まれていた。
上述のとおり、菊池氏はこの日の会議に欠席していたため、なぜこの提出資料で唐突にも見える特定疾病への言及を行ったのかという真意は不明だ。
一方、厚労省事務局が「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方(案)」に、これもまた唐突に見える特定疾病に関する記載をしたことついては、複数の委員から「この専門委員会で過去に議論になったとは承知していない」(天野慎介委員)「論点であるかのように提示することには反対」(同)「どのような内容なのか、どのような方向なのか理解できず困惑している」(大黒宏司委員)「当事者の意見も聞いておらず、この委員会でも具体的に議論していないので、文章は削除したほうがいい」(袖井孝子委員)などの反対意見が相次いだ。
その結果、次回の専門委員会(12月15日)で修正案として厚労省が示した「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」ではこの一文が削除された。このときの一連の経緯は、第7回専門委員会の議事録ですべて公開されている。













