スクープ映像を撮りました、では面白くもなんともない
──本作のミステリー要素も素晴らしかったです。特に嘉山の不正論文にまつわる顚末は、「失われたテキスト」を巡るミステリーとして新味がありました。かつて研究者をされていたからこそ、の発想ではないでしょうか。
そうかもしれないですね。実際に科学論文を書いた人でなければ具合が分からないというか、注目すらしないような点をうまく取り込めたかなと思っています。
──さきほど物語のギアチェンジという言い方をしましたが、それが起こるのは一回だけではないんですよね。終盤でさらにギアチェンジが起こるんです。
連載前に立てたプロットからだいぶ変わったんですが、終盤の展開は最初から決めていました。嘉山がうそをついていました、三田はそのスクープ映像を撮りました、では面白くもなんともないじゃないですか。主人公が一方的な断罪者になってしまったら、うそをつくのってよくないよね、みたいなつまらない結論しか出てこない。僕が今回書きたかったのは、本人が本気で自分のついたうそを信じていた場合、うそをついたと言えるんだろうか、とか、うそをつかざるを得ない状況とはどんな状況だろうかとか。そもそも、なぜ人はうそをつくのかということを探りたかったので……、こういう展開にする必然性がはっきりとあったんです。
──しかも、ギアチェンジはラストでまた起こる。それまでのギアチェンジは、事前に予感が搔き立てられていたかなと思うんです。でも、ラストは想像だにしていなかった展開で、心底驚かされました。
僕としてはそんなに意外なラストを書いたつもりはなかったんです。でも、「こうなるとは思わなかったです」といろいろな人に言われて、読み返してみると、確かにそうだよなと(笑)。読者がどの登場人物に感情移入してきたかや、この物語のどの部分にフォーカスして読んでいたのかによって、ラストの受け取り方は結構違うのかもしれない。読んでスカッとする作品も好きですし、自分でも書いたりもしますが、この作品に関しては読書の余韻が残るようなものになっていたらいいなと思います。
──読み終えてから、今度は自分で考える時間が始まる。問いを渡された、という読後感が強烈でした。
今はSNSで毎日のように、平気でうそをつく人たちがうそを撒き散らしている時代ですよね。それがうそだと指摘しても得することはたぶんないし、相手が万が一正しかったら大変なことになっちゃう。だから見過ごすという選択をすることで、モンスターが大きくなってしまう。この小説を読んでくれた方が「三田と嘉山はモンスターだな」と思ったとします。でも、あなたは、あなたの職場の隣りのデスクの人のことをちゃんと見ていますか。何か怪しいなと思っても見過ごしていませんか、と問いかけたい気持ちがある。そういった現実を直視するきっかけに、この一冊がなれたらなと思うんです。しかも、自分でもいいなと思っているのは、そういったテーマを扱いながらもエンタメの皮をちゃんとかぶせていること(笑)。総合力で出来上がった作品なんですよ。これまで書いてきた全ての経験がここで活きたと思っているんです。













