アキレス腱断裂でも手術はせず、復帰絶望
中井戦後、練習に復帰してからも調子は戻らなかった。70代の母親の介護、子ども3人の育児や家事、もちろん仕事もある。練習後、日によってはコンビニの夜勤もこなす。妻は下半身に生まれつきの障害があり、ときには支援が必要なときもある。
ただ、いずれもこれまで通りの生活習慣であって、肉体のパフォーマンスとは関係がないと斉藤は言う。35歳になって、単に練習の疲れが取れなくなった。
2023年12月に、再度日本ランカーとの試合に挑んだ。だが、試合中の負傷により引き分けとなった。
「パンチをガードしたときに、自分の手が額に当たっておでこが切れました。今まではそんな負傷したことはなかったので、肉体的な疲れが全身に溜まっていたのだと思います」
決定的なことが起きたのはその試合の3カ月後。トレーナーとして勤務先のジムで体を動かしていたところ、ブチッという衝撃音とともに左足に激痛が走った。
「アキレス腱が切れていました。医師から手術のため1週間ほど入院が必要だと言われたのですが、認知症の母の介護もあり、長期間休むわけにはいきません。調べたら海外ではギブスで固定して手術せずに回復を待つ方法もあると知り、シーネという取り外しできるタイプのギブスを使って、松葉杖の生活が半年くらい続きました」
手術を選ばなかったぶん治りは遅かった。ボクシングから離れてまた1年半近くが経った。もう復帰は難しいのか、自分の体の状態を確かめようと久しぶりに練習を再開したのは2025年12月。預かっていた鍵でシャッターを開け、誰もいない夜のジムで黙々とトレーニングするようになった。
クリスマスも一人で練習をしていると、会長がジムの扉を開いた。「ウチじゃ食べ切れないから」と、ケーキの入った箱を手渡された。封が開いていなかったので、恐らく子どものいる斉藤のために用意していたものだろう。
「再開のため鍵を預かってから、毎日来て練習しているのを知っていたのだと思います。クリスマスの日はそれを確かめに来られたんじゃないかと思います」
それからしばらくしてトレーナーを通じて、3月に引退試合を組むとの連絡があった。













