スパチャで「推し」と繋がっている感覚

スパチャを送られた配信者は、その視聴者に感謝を述べ、コメントを読み上げ、質問に対しては返答するなどのリアクションをするのが慣例だ。

VTuberはあくまでコメントを拾うだけであって、視聴者と会話をするわけではない。双方向性のコミュニケーションとしては不完全とも言える。だが、不完全であるがゆえに、ユーザー側はその余白を埋めようと試みる。

「やっぱりコメントが読まれると、『推し』と繋がっている感覚が得られる……ということなんでしょうね。それは間違いなくある。『推し』から認知されたいという、承認欲求が絡んでいると思います」

実在しないVTuberを推すとはどういった感覚なのか
実在しないVTuberを推すとはどういった感覚なのか
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配信者がユーザーの投稿コメントにリアルタイムで反応する、という行為が特に重要だと【リョウ】は強調する。

「こちらのコメントに反応してくれたら、この世界に『推し』が存在していることが確信できますから。リアルタイム性っていうのが、かなり今のVTuberは大きいです。僕はそんなに赤スパは投げるほうではないんですけど、高額スパチャを投げる人は、一番のファンでいたいという気持ちが相当強いと思います。

『あいつには負けたくない』って。お金を使って認知してもらうと、その成功体験が積まれていって、ファン心理みたいなものが、どんどん先鋭化されていくっていう感覚があります」

何も得るものがないのに金を投じる。そのことに対して、疑問を抱くことはないのだろうか。

「そう思ったことはないです。無料で観るのは申し訳ないのでお金を出す、くらいの感覚なので、コメントを読まれなくてもかまわないんです。言ってみればチップのようなものですよ。スパチャの時間は一瞬で終わっちゃいますけど、配信自体は長いので、エンタメとしては、だいぶコストパフォーマンスはいいな、って思っています」

「コスパがいい」──。

これまでの取材対象者も、皆、異口同音に「自分はコスパよく楽しめている」と話す。事実、そう感じているのか、あるいは消費への言い訳なのか。

「でも、まだ新しい界隈でファンも若い子が多いから、そこまでお金が飛び交うような業界ではないです。VTuberが配信中にスパチャを求めるような言動は、まず観たことがありません。スパチャの総額が多い人は、そもそもユーザー数が多いんですよ。上限は5万円と決まっていますし、みんなが少額を投じた結果だと思います」

文/加山竜司 写真/Shutterstock

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「推し」という病
加山 竜司
「推し」という病
2026/1/16
1,320円(税込)
288ページ
ISBN: 978-4166615193

なぜ彼らは苦しくても「推し」続けるのか
AKB、ホスト、VTuber、アニメキャラ、ゲーム、地下アイドル、AV女優、ビジュアル系バンド…

当事者への取材を重ねた「推し活」の現在地

「推し」という言葉は、「好きなものを応援する」ポジティブな言葉として使われることが多い。
だが、アニメグッズを購入したり、アイドルのコンサートに参加したりすることだけでなく、たとえば地下アイドルライブでのチェキの大量購入、ホストクラブやメンズ・コンセプトカフェでの過激な売り掛けなどを表す際にもこの言葉は使われている。
少なくとも、言葉のうえでは、学生のささやかな「推し」と、身を滅ぼすほどの出費をともなう「推し」は地続きだ。

「高田馬場ライバー刺殺事件」をはじめ、「推し」を端緒とした刑事事件も発生している。その精神性の根が同じであるならば、私たちは「推し」とは何かを慎重に見極める必要がある。
実際に「推し」によって人生を大きく変える選択をした人々の言葉に耳を傾けることで、「推し」の何が人々を病的なまでにエスカレートさせていくのかを探る。

第一章 「結婚するなら、もちろんアイドル」
“「推し」のためにマンションを売った”トップオタ

第二章 「ホストはコスパがいい“推し活”」
“ホス狂い”風俗嬢のコスト意識

第三章 「二次元は“恋愛対象”になるか」
アニメ、VTuber、2.5次元、声優…オタクたち「推し活」

第四章 「結婚できなかったのはアノ子のせいじゃない」
女性アイドルを14年間推し続ける中年女性の憂鬱

第五章 「AV女優に求める純潔」
秩序を守るAV女優アイドル・トップオタの女子校教師

第六章 「“運営”は搾取をしているのか」
元ジャニーズJr. 地下アイドル運営の見果てぬ夢

第七章 「推しがいないこの世界に、生きる意味はない」
「推し」の後追いで「自殺未遂」した納棺師

第八章 「オタクとアイドルは運命を捻じ曲げて共に生きる」
オタクでアイドルだった彼女は、今日もSNSで未練を語る

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