現役世代からの支持をバックに改革に踏み切れるか
ただし、慎重な議論が必要な領域でもある。薬を必要としている人の負担が増えるからだ。数百円の窓口負担で処方されていた薬を、ドラッグストアなどで数千円で購入しなければならないケースも多い。慢性的な疾患に悩む人の負担は計り知れない。
WHOが推進する「セルフメディケーション」は、軽度な身体の不調は自分で手当てするというものだ。持続可能な社会保障制度を構築するうえで欠かせない考え方だが、製薬メーカーにとっては収益力を高めるビジネスチャンス以外の何物でもない。業界が活性化する一方で、過剰な広告宣伝費などのコストが上乗せされて価格の高騰を招きかねないわけだ。
医療機関の収入減少にもつながり、病院の経営を圧迫する要因にもなる。赤字の病院は全体の7割に達すると言われており、OTC類似薬の見直しは医療崩壊を招く導火線にもなりかねないのだ。
危機感を募らせるのが日本医師会である。会長の松本吉郎氏は社会保障制度改革の中でも、特にOTC類似薬の保険適用除外に強い懸念を抱いていた。
医師会は日本医師連盟を通じて、自民党に対して3年間で6億5000万円もの政治献金をしていたことが明らかになっている。自民党にとって医師会の意向に背くのはパンドラの箱を開けるのに等しい。社会保障制度改革が進まない背景の一つにある。
しかし、高市政権の支持率はこれまでとは全く異なる。現役世代からの支持が厚いのだ。朝日新聞の世論調査でも、30代の支持率は86%に達している。50代以下で70%以上だった。政権運営において現役世代の声を無視することはできない。配慮すべきポイントが変わったとも言える。
国民の興味関心が高いのは物価高対策だ。減税を求める声も多いが、物価上昇を上回る賃金アップに成功するのが物価高の本質的な解決法である。維新の会は4兆円の医療費の削減で、年間6万円もの現役世代の負担減につながると説く。
高市首相は10月21日の就任会見で、病院の7割が赤字であることに触れ、経営改善につながる補助金を前倒しで措置する考えを示した。医師会への配慮と見ることができ、松本吉郎会長は大変心強い思いだとコメントしている。高市首相の優れたバランス感覚が垣間見えた瞬間だ。
新政権がいかなる着地点を見出すのかに注目したい。
取材・文/不破聡












