名刺の売買、弁護士の見解は?

実際、メルカリでは悪用につながる可能性があるため、個人情報を含むものの出品・投稿や個人情報の不正利用を禁止しているが、その中には「メールアドレス、名刺、その他個人情報に該当するもの」が含まれている。

事務局が禁止行為に該当すると合理的な理由に基づいて判断した場合は、取引キャンセル・商品削除・利用制限などの措置を取ることがある。

禁止事項でありながらもいまだに売買が続いている状況も問題だが、こうした著名人の名刺の販売はそもそも違法なのではないだろうか?

佐賀大学客員教授で武雄法律事務所の大和幸四郎弁護士は、次のように解説する(以下、「」内は大和氏のコメント)。

「オークションサイトなどで販売されているものを見たところ、政治家の名刺には名前だけしか書かれていないものが多いですね。この場合、名刺は表札のように人物または事物の同一性を表示するに過ぎないものであり、文書にはあたらないとされています。そのため、それらの売買自体は違法ではないと考えられます。言ってしまえば、大谷翔平選手のサインボールや、有名作家のサインが書いてある本と同じなのです」

アイドルが写真集にサインしたものを「プレミア商品」としてオークションサイトで販売した場合、「転売ヤー」と批判されることはあるし、大谷のホームランボールをキャッチしたファンが「売ります!」と豪語して非難されることはあるが、それらはいずれも違法行為ではない。名刺の販売も同じということだ。

写真はイメージです(Shutterstockより)
写真はイメージです(Shutterstockより)

 「例えば芸能人がサインを書くときのように『〇〇様へ』と名刺に書いてあった場合、それを販売することで当人同士で問題になるかもしれません。ただ、あくまでもそれは信義則を破ることであって、違法性はありません。

一方で、高市首相の名刺には直筆と思われる文書がありますが、その文章を販売者が書き換えたりした場合は、刑法第159条の『私文書偽造罪』に問われます」

それでは、購入者は何の目的で名刺を購入しているのだろうか?

「名刺にはさまざまな効用があります。例えば、安倍晋三元首相の『桜を見る会』には、詐欺容疑で逮捕されたジャパンライフの会長が招待されていました。そして、同社はその際に届いた招待状を、顧客勧誘の最大の宣伝材料として使っていました。

『安倍首相から桜を見る会の招待状が来るぐらいだから、立派な人なんだ』と顧客に思わせたわけです。それと同じように、著名人の名刺を持っていると信用力が高まる。その信用力を利用して詐欺などに悪用される可能性が出てくるのです」

もちろん、もらった名刺を個人のサイトで載せるだけなら法的に問題はない。ただし、そのキャプションに「政治家のみなさんからも応援を受けています」などと書いた場合、罪に問われるおそれがある。

大和弁護士はこう続ける。

「名刺を配る時点で『この携帯番号かメールアドレスに連絡してほしい』と自ら個人情報を開示しているようなものですから、政治家だけではなく、一般人の場合も、それが販売されても罪には問えないでしょう。

名刺の所有権は相手方に移っているため、売ろうが破ろうが、メモ書きに使われようが、何も言えないのです。そのため、私は名刺交換する際には芸能人のように『〇〇様へ』と書くようにして、悪用されないようにしています」

もらった名刺をオークションサイトで販売すること自体は違法ではない。しかし、それを行うことで、信用は著しく損なわれるということを忘れないでほしい。


取材・文/千駄木雄大