逃げずに自分の心と向き合い、気づけた特性
今は障害者のグループホームで夜勤の仕事を週2回こなしながら、地元でひきこもりや生きづらさを抱える当事者や家族の会を運営している。あちこちの居場所に参加するうちに、安心して話の出来る場がある事の大切さに気がついたからだ。
「居場所に来る人って、みんな何かに悩んだり生きづらさを抱えているから、他人を傷つけないような気づかいがある。失敗しても責めたりしない。
私は病気のせいで、認知機能も落ちているし、記憶障害もあるし、言ったことも約束したことも忘れちゃうことがあるけど、しょうがないよねって言ってくれるやさしさがある。私はこのままでもいいんだと思える場所ができたのが、ものすごく大きかったですね」
人との交流や勉強を重ねるうちに、幼少期からのトラウマが蘇り何度も苦しくなった。それでも逃げずに自分の心と向き合ううちに、気づけたことがたくさんある。
「たぶん、私は発達障害。ADHD(注意欠如・多動症)の特性をたくさん持っているのだと思う」
そう考える理由として、朝美さんが話してくれたのは5歳のときのエピソードだ。バスと電車を乗り継いで家出したのだという。警察に保護されて、迎えに来た祖母にこっぴどく怒られた。
「たぶんお母さんの所へ行こうとしたのだと思う……。おばあちゃんに、ものすごく抑えつけられて育ったから、呪縛というか、自分で自分を抑えるようになっちゃったけど、本来の自分は動きたいタイプ。そもそも5歳で家出なんて普通しないじゃん。かなり危ないよね(笑)。
それまで、自分は愛着障害やアダルトチルドレンじゃないかと思って、ずっと家庭環境のせいにしてたけど、私の方にも様々な要因があったのかもしれない。だから、親の辛さも今は理解できるし、親にも子どもにも周囲の人にも、感謝できるようになれてよかったなって思います」
どこかで気持ちも吹っ切れたのだろう。今ではイベントや講演会など、やりたいことを思いつくと実行に向けて突っ走っている。
「また脳梗塞を起こすかもしれないし、たぶん、どんなに頑張ったって、あと10年ぐらいしか自由に動けないだろうから、今できることをとりあえず、やっちゃおうって。
これまでの人生の中で今が一番生きるのが楽だし、楽しい。私がまた何かしでかすんじゃないかと息子は警戒してるけど(笑)」
〈前編はこちらから『60代女性と42歳息子が二重ひきこもり…女性の母親が壊していった家族の半生』〉
取材・文/萩原絹代













