一歩進んだ東京と地方の賃金格差
ただし、石破内閣は地方への恩恵が大きな成果も残している。大胆な「賃上げ」だ。
厚生労働省は9月5日の各都道府県の審議会で今年度の最低賃金の改定額を発表し、全都道府県で初めて1000円を超えた。全国平均は6.3%(66円)引き上げられ、1121円となった。
熊本県は82円、大分県が81円、秋田県が80円引き上げられている。東京都は1226円で最高だが、最高と最低の差額は203円で、前年から9円その差が縮まった。
石破政権においては、最低賃金を1500円に引き上げるという政府目標を2030年代半ばから2020年代に前倒しする方針を掲げた。目標を2029年度に達成する場合でも、引き上げ率は年平均7.3%であり、過去最高を上回る強気なものだ。
地方に住む若者や現役世代、都市部に暮らす移住希望者にとって、賃金格差の是正は恩恵が大きい。
一方で、中小企業経営者にとって人件費負担の増加は頭の痛い問題だ。その声を先取りするように、石破首相は賃金引き上げに対応する中小企業、小規模事業者を強力に後押しすると9月5日に述べている。助成金や補助金の要件緩和などが頭にある模様だ。
そして石破政権の一番の成果といえば、自動車関税を15%に引き下げたことだろう。依然として高い関税が課されてはいるものの、自動車産業という広範なサプライチェーンを揺るがす事態にまでは発展せずにすんだ。地方の製造業を中心とした中小企業を守ったのは間違いない。
しかし、賃金上昇は物価高を起点としたものであり、トランプ関税は突如として降りかかってきた、いわば災いに近いものだ。地方創生がその成果の根源にあるとは言いづらい。首相のライフラークと言える領域において、レガシーを残すことができなかった。
現在、さまざまな首相候補が取り沙汰されているが、地方創生という政策を受け継ぐに相応しい人材に欠けているのではないか。石破首相という最後の砦を失えば、この議論が下火になる可能性もある。
取材・文/不破聡 サムネイル写真/共同通信社