経済拡大のエンジンは、「人間の欲望」
投資を始めたばかりの人、あるいは投資に興味はあるがまだ一歩を踏み出せない人に、よく聞かれる質問がある。それは「そもそもなぜほったらかしでも株価は上がると言えるのか?」という根本的な問いだ。
とても重要なことであるにもかかわらず、なぜかほとんどの投資本ではふれられていない。もしくは、意図的にぼやかされている。ここでは、この重要な問いに対する答えをまとめてみたい。
株価が長期的に上がる最も根本的な理由は、「資本主義経済の拡大再生産というしくみ」だ。
資本主義経済の根底に流れるのは「人間の欲望は尽きることがない」という前提である。よりよい住居に住みたい、より早く目的地に着きたい、よりおいしいものを食べたい、より健康でありたい、より安全でありたい、より豊かな教養を身につけたい……。このような人間の欲望が経済を動かす原動力となっている。
企業は、この尽きることのない人間の欲望に応えるため、よりよい製品やサービスを開発し、提供する。そのために利益の一部を研究開発や設備投資に回す。この「拡大再生産」のサイクルが資本主義経済の本質であり、株価上昇の源泉となる。
もう少し具体的に考えてみよう。仮に、ある企業が100万円の資本金で事業を始め、1年間で10万円の利益を出したとする。この利益のうち1万円を株主に還元し、残り9万円を再投資する。109万円を活用することで企業の生産性が向上し、翌年はさらに多くの利益を生み出す。このサイクルが繰り返されることで、企業価値は着実に増大していく。
世界中の企業がこのような活動を行う結果、経済全体が拡大していく。株式投資とは、このような企業活動の成果を株価上昇と配当により享受するための手段なのだ。
大恐慌、大戦争、オイルショック、リーマン・ショックなど、経済に大きな打撃を与えるできごとは過去に何度もあった。しかし、そのたびに人類は知恵を絞り、新しい技術や仕組みを生み出し、乗り越えてきた。このような危機を乗り越えてなお経済が拡大し続けてきたのは、「人間の欲望」という力強いエンジンがあるからだ。
この「人間の欲望」は資本主義経済において二つの側面から作用している。一つは、企業がよりよい製品・サービスを提供することで企業価値の向上を目指すという面だ。もう一つは、経営者・従業員そして消費者がよりよい生活を求めて、企業の売り上げに貢献する成果を出し昇給を目指すという面である。いずれも「人間の欲望」がベースになっており、このしくみが将来にわたって続いていくだろうという強固な根拠となっている。
資本主義経済の本質を理解すると、株価が長期的に上昇するのは決して偶然ではなく、システムに組み込まれた必然だと言える。「よりよいもの」をめざす人間の止まることのない欲望が、企業価値の向上を通じて株価の上昇をもたらすのだ。
とはいえ、ここで「株価が上がる」という場合、すべての個別企業の株価が上がり続けるわけではないことに注意が必要だ。企業には盛衰があり、衰退する企業もあれば、新たに台頭する企業もある。重要なのは、市場全体としては経済成長とともに上昇していくということだ。だからこそ、全世界に分散投資を行うインデックス投資が有効なのである。
ファイナンス理論では「リスクプレミアム」という概念で株式のリターンを説明することがある。これは、株式は価格変動の少ない安全資産と言われる国債などよりもリスクが高いので、その分期待できるリターンも高いという考え方だ。このリスクプレミアムは、資本主義経済の拡大再生産というしくみによってもたらされるリターンの構成要素を、別の角度から説明したものである。
つまり、リスクプレミアムの考え方と資本主義経済の拡大再生産という見方は相反するものではなく、同じ現象を異なる視点から捉えたものと考えることができる。
本質的には、人間の欲望を満たすために企業が絶え間なく活動し、経済全体が拡大していくという資本主義経済の仕組みが、株価上昇の根本的な理由なのだ。だからこそ、「ほったらかし」でも株価は長期的には上がるのだ。