「あの人が何もなしに刺すわけがない」
別の近隣住民は後悔の念がたえないという。
「事件当日は午後1時過ぎに家に帰ってきた。古谷さんの長男以外の親族が携帯電話で『ボケ老人がやっちまった』と電話で誰かに話していた。そのときは警察がまだいなかったと思う。
夏や冬は窓を閉めていたからあまり聞こえなかったけど、春や秋の窓を開ける季節はよく晩御飯どきに『殺すぞ』『てめえなめてんのか』と聞こえていた。最初は大丈夫かなと心配だった。でも長男の一方的な声だけで、古谷容疑者の言い返す声などは聞こえなかった。
長男の大声が聞こえているとき、たまにドンと鈍い音が聞こえてきた。人が床に倒れる音だったと思う。でもいつものことだからと思って、通報などはしなかった。なので、まさかこんなことになるとは思わなかった。あのとき通報していたら結果が変わったのではないか……」
管理人によれば、古谷容疑者は3〜4年前に集合住宅がある地域の自治会長を1年間務めていたという。古谷容疑者について、「古谷さんは大人しい印象だけど、集会の場では意見も述べるし、ちゃんと仕事をしていた印象」と語る。
古谷容疑者と一緒に自治会の仕事をやったことがあるという70代女性は次のように証言する。
「年に一度、自治会の役員メンバーが変わるのですが、住民からの推薦ということで、古谷さんが選ばれました。穏やかな人で、仕事が丁寧なことで印象的です。長年住んでいることから、回覧板に入れる資料はどう作ってどういうふうに回せば良いのか、掃除のローテーション作成など、ここのアパートのことならなんでも知っている感じでした。また、丁寧にいちから私に教えてくれたのです。仕事は十数年前に引退したと聞いており、何をしていたかなどは聞きませんでした」
そして、「あの人は理由なしに人を殺そうとする人ではないんです。きっと息子にも問題があるんです」と訴えた。
「数年前に古谷さんの家から、長男の『殺す』といった叫び声が聞こえると住民の間でうわさになったことがあります。古谷さんの声は私がよく知っていますから、大きな声は古谷さんのものではありませんでした。
それどころか古谷さんの声は一回も聞こえなく、我慢されているのかなと思っていました。次第に古谷さんを見かけなくなり、そして今回の事件が起きました。あの人が刺した背景にはなにかあるはずです。事件に驚きを隠せません」
古谷容疑者の親族にも話を聞いた。事件現場となった一室のインターホンを押すと、40代の男性が玄関の扉を開けた。
「いろいろとバタバタしていて精神的に疲労しているんです。取材には答えられません。騒ぎになってごめんなさい」
玄関口には青色の車椅子が畳んで置いてあり、玄関と通路の段差にはスロープがかけられ、左側には手すりが設置されるなど、バリアフリー化が進んでいる部屋だった。玄関から見て通路奥の部屋には昇降ができる介護ベッドが見えた。
なぜこのような悲惨な事件が起きたのか。解明が急がれる。
※「集英社オンライン」では、今回の記事についてのご意見、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。
メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com
X(旧Twitter)
@shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班