栗野 ファッション展でいうと、僕はロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の「洋服の歴史」という展示室を初めて見たときに強く感銘を受けました。
中世から、ゴシック、ヴィクトリア期などを経て、20世紀以降ではシャネルやマドレーヌ・ヴィオネの洋服が展示されていました。僕が初めて行ったのは1988年なんですが、その時点ではヴィヴィアン・ウエストウッドとコム・デ・ギャルソンの服もあって、最近、再訪してみると新しいデザイナーも並んでいて、歴史がきちんと書き加えられている。
大好きな美術館なんですが、その展示を見ていると、ファッションと社会が分かち難がたいものであること、女性の権利とかジェンダーの在り方とかも含めてそのときどういう時代だったか、というのを読み取ることができますね。
平芳 ファッションは流行として享受され、消費され、はかなく消えることが美徳という側面もかつてはあったと思いますが、あえてアーカイブとして保存し、未来につなげる、そういう役割を美術館は果たしています。
私たちが今楽しんでいるファッションという身近なものが文化や芸術としての価値を認められるのは、嬉しいことですね。
また実際には買えないような豪華なドレスが展示されているとしても、自分が着てみたらどうだろう? とイマジネーションを自由に飛躍させる、そういった楽しみ方がファッション展にはあると思うんです。
龍淵 あとは、今のお話とは別の角度の話ですけど、ファッション展に行った「映える私」をSNSにアップする、というエクスペリエンス(体験)も込みでの人気もありそうです。先ほどの話にも出ましたが、物の消費よりエクスペリエンスにお金を使いたい、という現象ですよね。