ファッションに未来はあるか?
龍淵 これからファッションは面白くなるでしょうか? 今、私の15歳の娘がファッション業界に行きたいそうなんですが、「やめたら」と言ってるんです(笑)。まあ、私も夫もそういう仕事だから、自分もやりたい、と。

栗野 ファッションというものを支えてきた幻想自体は崩壊しているので、おっしゃるようにその観点では未来は明るくないと思いますよ。
僕の会社(ユナイテッドアローズ)のスタッフには「トレンドという言葉を使わないようにしよう」と、もう何年も前から言っています。トレンドとは結果であって、それを気にしたり、作ろうとする、という発想自体が自分たちのオリジナリティを薄めてしまうことになる。
トレンドに囚とらわれず作りたいものを作るとか、いいものを作ることが大切である、と。なんなら直近は、「ファッションという言葉も使うのはやめたほうがいいかも」と言っています。
一枚の白いシャツを例に出すと、デザイナーズブランドのシャツが3万円で、ユニクロのシャツが2900円だとすると、10倍の差がある。もちろん素材も作り方も違うけど、ぱっと見は一緒。
じゃあユニクロは下に見るようなものか、というとそうではない。僕が今日着ているTシャツもユニクロです。いろいろ試した中で、メンズでコットン100%の白Tは、ユニクロが一番よくできています。プロダクトの健全性がファッション軸を超えている。
龍淵 ファッションをファッションとして単に捉えると限界を感じるかもしれないけれど、ファッションという枠を超えていけば可能性が広がるかもしれません。例えばアートとか工芸とか。
栗野 そうですね。ファッションと農業とか。例えば、東大生が平芳さんの講義を聞いたりするように、ファッションは、カルチャーにもなっている。それを研究したり、興味を持って何かの形でコミットメントしていくことで「やっぱり面白いな」と思ってもらえれば、未来はその子たちが作っていくと思う。
もちろん大人の責任は大きいですから、ファッション商品のリテーラーとしては、それでもみんなが夢を見てもらえるようにしていきたいです。
平芳 一方で、最近は美術館におけるファッションをテーマとした展覧会が人気ですね。1970年代に日本で初めての本格的なファッション展が京都国立近代美術館で開かれたときには、新聞などでファッションとは産業や流行であるだけでなく、芸術であり文化なんだということがしきりに強調されたものですが、その後1990年代から21世紀にかけてファッション展が増加し、今では国内外で多くの企画が話題となっています。