ターゲットを巧妙に選んでいる

さらに注目すべきは、彼らの行動が計画的かつ目的にかなっていることです。

よく私が言うのが、「彼らは交番の前では決して性加害をしない」ということです。彼らは場所や時間やターゲット、状況を巧妙に選んでいるのです。痴漢被害に遭うのは圧倒的に女子中高生が多いのですが、それは制服が従順の象徴として、加害者の支配欲というトリガーを刺激する一種の記号となっているからです。彼らは「ノーと言えない、警察に訴え出なさそうな相手」を選んでいるわけです。

性加害者のなかには、加害行為について「達成感」「生きがい」「RPG(ロールプレイングゲーム)」と表現する者もいます。痴漢をしたときの詳細をコツコツと手帳に書き込み、スキルアップしていくゲームにたとえる者さえいるのです。彼らにとってはそうした複合的な快楽が凝縮した行為となるため、非常に習慣化しやすく、なかなかやめることができません。

「性欲が抑えきれなかっただけ」ではすまされない…「達成感」「生きがい」「RPG」と表現する者もいる痴漢、性加害行為の克服には“再犯しない日々”を重ねていくしかないワケ_3
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被害者が奪われる自由と自尊心

性加害者の多くは被害者や自らの加害行為に関する誤った認知を持っています。「肌の露出が多い女性はレイプされることを望んでいる」「目が合う、手が触れるのは、相手にその気があるからだ」「出会い系に登録している女や風俗で働いている女は、何をしても構わない」といった考えです。その根底には、「女性はモノのように扱ってもよい」とする男尊女卑的な価値観が根強く存在しているのです。

とある裁判で加害者は「痴漢されても(被害者の何かが)減るわけじゃないと思っていた」と発言し、これに対し裁判官は「何が減ると思いますか?」と問いかけていました。これもまた重要な指摘だと思います。

「減るもんじゃないし」という言葉に対して、被害者の側から見ると、多くの何かが「失われ」「奪われて」います。平和な日常や、公共の場所での安心感など、数え切れないものが損なわれています。被害者は混雑する時間帯を避けたり、あえて通勤・通学路を遠回りしたり、自衛グッズを持ち歩いたりするなど、本来必要のない負担を強いられます。

さらには電車でどの席に座るか、どのような服装をするかなどにも気を配らざるをえなくなり、自由と自尊心が削られていくのです。これは人としての尊厳の侵害に他なりません。