大学受験を通じて、社会を平等にするには?
本田氏が語ったのは東大生への「叱咤」だけではない。同時に「激励」の想いも、強く滲み出ていた。
「高校生に対する進学意識の調査なども行なっているのですが、進学校の男子ほど、“東大卒”=コスパ・タイパを生かしたスマートな勝ち組というイメージを持っていて、自分もそうなりたいという話をしてきます。
ただ、東大卒であっても、それだけで“勝ち組”でいる人なんて、本当に少ない。東大卒のブランドに一生寄りかかってのうのうと生きていけるなんてことはありません。資格を取ったり、転職を重ねたりして、一生懸命、人生を模索しながら生きていることは、他の大学生と変わりないんですね」
また、東大卒というと総合的に要領がいいイメージを持たれがちだが、専門職、資格職についている人が多い結果になったという。
このことを、ライフステージの変化を想定して、専門職志向の強い傾向にある女子学生たちにもっとアピールしたい、とも本田氏は強調した。
「日本って、どんどん不平等な社会になっていて、それが世代を超えて再生産されています。社会全体で対処するには、教育や選抜の仕組みも変えていく必要がある。上から点数順に選んでいくやり方だと、家庭環境が有利な人たちが絶対に有利になりますね。
理想的には、一定ラインの習熟性を確認する認定試験のようなものをやったあと、専攻したい学問への関心や適性を見るようなやり方のほうが、機会的な平等を保てるのではないか、と思っています。
そもそも大学や高校が、こんなにも序列化されているのが大問題。でもスイッチ一個で是正するようなことは無理なので、もがきながらやっていくしかないですね」
東大に関わる人々だけでなく、日本社会を叱咤激励しようと生まれた『「東大卒」の研究』は、立場にかかわらず、「自分が社会に果たすべき責任」について考えさせられる。
取材・文/ひらりさ 写真/Shutterstock
〈プロフィール〉
本田由紀(ほんだ・ゆき)
1964年生まれ。東京大学大学院教育学研究科教授。著書に『「日本」ってどんな国?』(ちくまプリマー新書)、『教育は何を評価してきたのか』(岩波新書)など。