マー君とハンカチ王子、それぞれのセカンドキャリア
――高森さんは中高ともに成績はほぼオール5で勉学の道を志す選択もあった中でプロ野球選手になりました。その意味では野球の道を選んで正解だった?
それはわからないです。野球をやらずに学者として何か世界的な発見をして、ノーベル賞とか受賞してれば、「野球を選ばなくてよかった~」ってなってたかもしれない(笑)。
――プロ野球選手の中では珍しく学業が優秀ということで、他の選手と会話が噛み合わなかったりしなかったんですか?
プロ野球選手の言語って「スゴイ」「ヤバイ」「エグイ」の3つしかないんです(笑)。僕が相手投手の球筋を聞かれて「釣り糸で後ろから引っ張ったようなチェンジアップです」と言っても「お前の言ってることはよくわからん」となってしまう。そういう意味でのギャップはありましたよね。
ただ、彼らは言語で表現できないだけで、自分の頭の中にある映像のストックから球筋をイメージして、その球に対してどう身体を動かせばいいか……というのがすぐに体現できる特殊な感覚を持っています。
だからその感覚を言語化できるOBの方の解説は聞いていて非常におもしろい。桑田真澄さんとか工藤公康さんとかがそうですね。
――なるほど。
いずれにしても、高校卒業後にプロとして過ごした6年間は絶対ムダではなかったです。高卒からの6年ってちょうど大学と大学院を経て社会へ出ていく人たちと一緒。でもそういう人たちではまず得られないであろう経験はできましたから。
――高森さんはいわゆる“ハンカチ世代”。同級生にはいまだ現役の田中将大投手と、現在実業家として活躍する斎藤佑樹さんがいます。今やまったく別の道を歩むふたりですが、ボロボロになるまでやるのか、それともスパッと見切りをつけるのか、高森さんはどちらが正解だと思われますか?
どちらが正解なんてわかりません。ただ、野球選手ってやっぱりかっこいいなと思います。小さい頃から野球に膨大な時間を費やして、プロになっても身体がボロボロになりながら歯を食いしばって試合で結果を残す。結果が残せなければ何万人ものファンから誹謗中傷を浴びる。
お金を稼ぐことだけを考えたらこんなに非効率な仕事はないわけですよ。それでもスタジアムで名前をコールされてマウンドや打席に向かっていく後ろ姿を見ると、命が輝いてるなって。
ビジネスシーンで大金稼いでいても、命が腐ってる人っていっぱいいますからね。田中や斎藤もそれぞれの分野で命を燃やせばいいと思います。
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昨シーズン引退・戦力外通告を受けた157名のプロ野球平均在籍年数は6.3年。高森氏もそれと同じ時間を過ごして社会へと羽ばたいた。命を燃やした経験がある彼らが、一般社会でも結果を残すのは、至極当然のように思えてくる。
取材・文/武松佑季 撮影/矢島泰輔