データでも効果が出ていることが明らかに
こうした取り組みの成果は、数字にもはっきりと表れているという。市の調査よると、エスカレーターを立ち止まって利用する人の割合は、2022年度の78.7%から年々増加し、2024年度には93.3%に達した。
特に右側に立ち止まる人の割合は、2022年度はわずか7.6%だったが、条例制定後の2024年度には23.9%と大きく伸びており、「右側を空ける」習慣に変化が見られている。
さらに、担当者は輸送効率の面でも明確な利点があると語る。
「エスカレーター全体の輸送効率で見れば、立ち止まって2列で乗ってもらったほうが多くの人を運べます。この条例自体も、市民の方にはおおむね好意的に受け止められていますよ。ただそれは地域性もあるかもしれません。
名古屋の人ってわりと“決まったことは守らなきゃ”という意識が強いんですよ。その土地柄にも支えられて、ここまで来られたのかなという感じはあります」
一方で、課題もある。市内の住民には条例の内容が浸透してきているものの、観光客や出張者など、県外から訪れる人々への認知度はまだ低い。そのためにも、条例を制定するだけで満足するのではなく、その後どれだけ継続的かつ丁寧に啓発活動を行なえるかが、定着のカギを握るという。
また、他の地域でも同様のマナーが根付き、広がっていくことも重要で、「名古屋だけでなく、ほかの地域にもこうした取り組みが広がっていけば、我々としても本当にうれしいです」と担当者は語った。
無言の同調圧力を覆すのは、個人の努力だけではやはり難しい。だからこそ、名古屋のように「条例」という形で明確に示すことが、東京をはじめとした都市部でも変化を生み出すきっかけになるはずだ。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部