ころころ変わる文科省の政策の背景には「経済の優先」
なぜ、経営コンサルタント会社に丸投げしてまで統廃合をすすめるのか。学校の統廃合が必要な理由を、文科省や自治体は「少子化」だとしている。子どもの数が減っているのに合わせて学校の数も減らす必要がある、というわけだ。
しかし、「ほんとうの理由は、学校施設の維持・管理にかかる将来的な財政負担を減らすことにある。子どものことをまったく考えていない」と、山本氏は指摘する。
子どものことを優先していないことは、文科省の「政策転換」にも表れている。1956年11月に当時の文部省(現在は文部科学省<文科省>)は各都道府県の教育長と知事宛に、統廃合を奨励する「公立小・中学校の統合方策について」という「通知」をだした。
しかし、それによって無理な統廃合が各地で強行されて弊害を生みだしたことから、1973年に「無理な統廃合をしてはいけない」という新たな「通知」をだしている。
「この1973年の通知で文部省は、小規模校の利点を認めていました」と、山本氏は言う。
「通知」には、「小規模校には教職員と児童・生徒との人間的な触れあいや個別指導の面で小規模校としての教育上の利点も考えられる」と記されている。子どものことを優先すれば、小規模校のほうが望ましいわけだ。
ところが2015年1月に文科省は、学校統廃合に関する新たな「通知」を発表し、1956年の「通知」を廃止。
そして同時に示した「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引き」で、「小学校で6学級以下、中学校で3学級以下の学校については、速やかに統廃合の適否を検討する必要がある」と小規模校を頭から否定する統廃合の基準を示して、統廃合を奨励している。
こうした統廃合をすすめる政策に文科省が転換した背景には、2014年に総務省が各地方自治体に策定を促した「公共施設等総合管理計画」がある。
人口が減少して税収も減っているなかで、現状のまま公共施設を維持しようとすれば、将来の改修などで財源が不足する可能性が高いので、いまのうちに公共施設を整理削減する計画の作成と実施を、国が地方自治体に求めたのだ。経済的理由で公共施設の整理削減を急がせている。
この公共施設には、学校も含まれている。しかも、「全体の30~65%を占める」と山本氏が指摘するように、公共施設のなかで学校は大きな割合を占めてもいる。効率的に公共施設の整理削減を実行するためには、ターゲットにされやすい対象でもある。そのために学校の統廃合が急速にすすめられている。
効率のいい計画づくりには、ノウハウをもっている経営コンサルタント会社を利用するのが、これまた効率的とされている。ただし、その計画は経済効率が優先されるあまり、子どもたちが無視されるという弊害をともなう。今もそうした統廃合が全国的に行われている状況は問題でしかない。
取材・文/前屋毅 写真/Shutterstock
〈プロフィール〉
山本由美(やまもと ゆみ)
和光大学名誉教授。横浜国立大学教育学部教育学科、東京大学大学院教育学研究科教育行政学専攻修士課程を経て、同博士課程満期退学。2010年度から和光大学の教員、現在に至る。2019年から東京自治問題研究所理事長。
著書に『学力テスト体制とは何か~学力テスト・学校統廃合・小中一貫教育~』『教育改革はアメリカの失敗を追いかける』(ともに花伝社)などがある。