突然届いた「調停申立書」の驚くべき内容
しばらくして、レイさん宅に封筒が届いた。送り主は「那覇簡易裁判所」。調停申立書という見慣れない書類が入っていた。
引っ越し業者と子会社が連名で「沖縄の協力会社が約定に反して登録されていない人物を送り込んだのであって、法的責任があるかどうかは疑問がある」「仮に責任があるとしても200万円を超えることはない」と主張していた。
申立書には不審な点がいくつもあった。
まず、男側が提示した示談金は「50万円」と記載されていた。憲隆さんは「20万円としか聞いていない」と断言する。
さらに「沖縄の協力会社は作業日に都合が付かず、子会社に了承を得ずに、知人の男に丸投げした」ともある。
実は事件の翌日、子会社の責任者がレイさんに電話で謝罪した際、次のように説明した。
「病欠が多くて人が足りなくて、急遽、ネットで探したんですよ」
これが事実だとすれば、「丸投げ」したのは業者や子会社ではないのか。
許せない表現もあった。
「使用者責任があるとしても、事故の態様に徹すると…」
業者側の認識は、事件ではなく「事故」なのだ。
「あまりにも軽く見ている」。二人は口をそろえて批判する。
父の慟哭と覚悟
憲隆さんの怒りと悲しみはどれほどのものか。
「事件の後、娘はずっと泣いて、『死にたい』と言うばかりでした」
男の報復に怯えきっていたレイさんを見て「気持ちを強く持って」と励ますが、その言葉はなかなか届かない。「私っていないほうがいいのかな」と言う娘に、父親としてどんな声をかければいいのか悩み続けている。
それでも、「泣き寝入りすれば、ほかにも被害者が出る」との思いで娘に寄り添い、闘い続ける覚悟だ。
取材・文/目黒龍