引き返す勇気を男性は持つべき
──性行為の「同意」と聞くと、行為の前の同意ばかりを想像してしまいますが、事後の態度まで含めての「同意」ということですね。
そうですね。それを象徴するようなエピソードがあります。
以前、私はある男性からこんな相談を受けました。「一夜限りの関係を結んだ女性から後日突然、『私は同意してなかったよね?』というメッセージが来た」と言うのです。
その男性はテレビ番組に出演している著名人でした。前夜、女性と性行為をした直後、朝の番組出演のため明け方に自分だけホテルを後にして去っていったそうです。
女性はそれまで男性が著名人であることを知らなかったようですが、朝起きてテレビを見ると、さっきまで一緒にいた男性が映っているのを見て驚き、連絡をしたとのことです。
──被害と感じるかどうかは必ずしも性行為の前や最中で決まるのではなく、行為後にも変わりうるということですね。
そうです。加害意識のない男性にとっては、行為後に女性の考え方が変わることが“手のひら返し”に感じられるかもしれません。しかし、性犯罪に限らず、詐欺や窃盗などでも被害者が被害を自覚するまでに時間がかかるというケースは往々にしてあるので、被害を自覚するのが行為後であることは特に不自然なことではありません。
──男女でそうした考えのすれ違いが起きやすいのはなぜでしょうか。
男性はセックスがゴールだと思いすぎている傾向があります。ご飯屋さんを予約して、ホテルの部屋も取っておいて、タクシーで移動して、いざ性行為をしようとなったときに、「その気じゃない」という反応をされると、「元を取らなきゃ」って気持ちになって焦ってしまう人もいますよね。
──よくありそうな話ですね。
「元を取らなきゃ」って考えはすごくよくないですよね。例えタクシーでの移動中に相手にその気があっても、いざ部屋に入ったら嫌になることだってあるんです。もっと言えば、服を脱いでからやっぱり嫌だと気づく人もいるんです。
そうした反応をされた際に「元を取らなきゃ」と自分の気持ちを優先して、相手の意思を無視してはいけないんです。そこに至るまでに手間と時間をいくらかけていたとしても、そこで引き返す勇気を男性は持つべきです。
──セックスを最終ゴールと考えるべきではないと。
相手が乗り気じゃなかったらそこで引き返す。性行為をしたとしても、そこがゴールと思うのではなく、その後も相手と真摯に向き合い、長期的、友好的な関係を積み上げていく。
不同意性交等罪の加害者にならないために本質的に大切なことは、そんな風に、相手に誠意を尽くすことなんです。
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取材・文・撮影/山下素童
〈プロフィール〉
加藤 博太郎(かとう ひろたろう)
1986年生まれ。慶應義塾大学法学部(3年時まで法学部首席、飛び級のため単位取得退学)・同法科大学院を卒業後、大手監査法人勤務弁護士などを経て、加藤・轟木法律事務所代表弁護士。「かぼちゃの馬車」「スルガ銀行不正融資」「アルヒ・アプラス不正融資」など仮想通貨や不動産投資など数々の投資詐欺事件の集団訴訟(原告側)を担当し有名に。最近ではサッカー選手・伊東純也氏の性加害疑惑で伊東氏側の弁護を担当。メディア出演も多数。ソムリエの資格も持つ。