「四十四歳になった私の胸までキュンとさせる」

ロンドンのデザイナーと組んで、ファッションショーと組み合わせたライブを行うなど、スパンダー・バレエはファンク色を強めたサウンドになっていく。1983年にはソウルやモータウンに接近したアルバム『True』を発表し、アメリカでも大きな成功を収めることになった。

1980年代、ニュー・ロマンティック界の貴公子的存在として大ヒットを放ったスパンダー・バレエが、2000年に発表したベストアルバム。『GOLD - THE BEST OF SPANDAU BALLET / ゴールド-ザ・ベスト・オブ・スパンダー・バレエ<ヨウガクベスト 1300 SHM-CD>』(2018年4月18日発売、WANER MUSIC JAPAN)
1980年代、ニュー・ロマンティック界の貴公子的存在として大ヒットを放ったスパンダー・バレエが、2000年に発表したベストアルバム。『GOLD - THE BEST OF SPANDAU BALLET / ゴールド-ザ・ベスト・オブ・スパンダー・バレエ<ヨウガクベスト 1300 SHM-CD>』(2018年4月18日発売、WANER MUSIC JAPAN)

タイトル曲の『トゥルー(True)』は、歌詞の中に「一晩中マーヴィン・ゲイを聴く」というフレーズがあるように、1960年代のモータウン・ソウルへのオマージュ的な作品で大ヒットした。

この洗練されたサウンドが夜のドライブにピッタリだと、『トゥルー』は当時の日本でもヒットした。

小泉今日子は20数年後に書いたエッセイで、この曲に不意打ちをくらったときの体験を記している。

平日、午前11時の東名高速は案の定渋滞なしの快適ドライブ。FMからスパンダー・バレエの「トゥルー」が流れている。一九八三年のヒット曲は、二〇一〇年、四十四歳になった私の胸までキュンとさせる。
ラジオを聴いていると、こうやって不意打ちを食らうこともあるよね。一瞬であのインデックスの文字まで頭に浮かんでくる。でも、このキュンはもはや恋心ではなく、ただの思い出だ。時が過ぎるってそういうことだ。

1983年のヒット曲『トゥルー』にキュンとしたと語った小泉今日子が、1983年の7月5日に発売したアルバム『Breezing』(ビクターエンタテインメント)のジャケット
1983年のヒット曲『トゥルー』にキュンとしたと語った小泉今日子が、1983年の7月5日に発売したアルバム『Breezing』(ビクターエンタテインメント)のジャケット
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音楽は普段から人間に多くの影響を与えているが、「記憶を呼び戻す」ことに関しては特に力がある。

小泉今日子のエピソードで、手作りのカセットテープの「文字まで頭に浮かんでくる」というところは、いかにして音楽が人の記憶と結びついて、タイム・トリップさせてくれるかを如実に表している。

文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル/『Celebration』(1984年12月5日発売、ビクターエンタテインメント)

参考・引用
小泉今日子著「黄色いマンション 黒い猫」(スイッチ・パブリッシング)