「四十四歳になった私の胸までキュンとさせる」
ロンドンのデザイナーと組んで、ファッションショーと組み合わせたライブを行うなど、スパンダー・バレエはファンク色を強めたサウンドになっていく。1983年にはソウルやモータウンに接近したアルバム『True』を発表し、アメリカでも大きな成功を収めることになった。
タイトル曲の『トゥルー(True)』は、歌詞の中に「一晩中マーヴィン・ゲイを聴く」というフレーズがあるように、1960年代のモータウン・ソウルへのオマージュ的な作品で大ヒットした。
この洗練されたサウンドが夜のドライブにピッタリだと、『トゥルー』は当時の日本でもヒットした。
小泉今日子は20数年後に書いたエッセイで、この曲に不意打ちをくらったときの体験を記している。
平日、午前11時の東名高速は案の定渋滞なしの快適ドライブ。FMからスパンダー・バレエの「トゥルー」が流れている。一九八三年のヒット曲は、二〇一〇年、四十四歳になった私の胸までキュンとさせる。
ラジオを聴いていると、こうやって不意打ちを食らうこともあるよね。一瞬であのインデックスの文字まで頭に浮かんでくる。でも、このキュンはもはや恋心ではなく、ただの思い出だ。時が過ぎるってそういうことだ。
音楽は普段から人間に多くの影響を与えているが、「記憶を呼び戻す」ことに関しては特に力がある。
小泉今日子のエピソードで、手作りのカセットテープの「文字まで頭に浮かんでくる」というところは、いかにして音楽が人の記憶と結びついて、タイム・トリップさせてくれるかを如実に表している。
文/佐藤剛 編集/TAP the POP サムネイル/『Celebration』(1984年12月5日発売、ビクターエンタテインメント)
参考・引用
小泉今日子著「黄色いマンション 黒い猫」(スイッチ・パブリッシング)