記者会見を実施後、届いた2枚の内容証明

西廣弁護士側は9月2日に「提案についてはホテルの許諾を取っていただく必要がある」と返答。また西廣弁護士側がホテルに確認したところ、ホテルは伊藤氏のメールにあったように8月に「裁判以外の使用は認められない」と伝えていたことが分かった。

西廣弁護士側が9月10日に再度「ご検討結果またはご検討状況をお知らせください」と伊藤氏にメールを送ると、翌日に伊藤氏からは「現在検討中ですので、近日中にお返事させていただきます」と返信が届いたという。

追って、17日には「本件に対する対応を、これまでのチームだけでなく、法律面からも検討いたしております。対応が決まり次第、速やかにご連絡いたしますので、暫時、お待ちいただければ幸いです」とのメールが届いた。

10月2日。西廣弁護士側が「ご検討結果をお知らせください」とのメールを送ると、10月4日に、文藝春秋の代理人としても知られる喜田村洋一弁護士から「私が伊藤氏の代理人になった」「良案を模索中なのでしばらく待って欲しい」とのメールが届いたのだという。

「10月7日、こちらから喜田村弁護士にメールでお尋ねしました。当時、映画祭等で公表されている作品や今後映画館で上映される作品は、東大本郷キャンパスの試写で我々が視聴したものと異なる箇所があるかどうか。また、“良案”の回答がいつになるか、などです。しかし返信がなかったため、10月11日に再度メールをお送りしました。

10月15日、喜田村弁護士から返信があり『東大で上映された『BLACK BOX DIARIES』と同じものは、ニュージーランド、オーストラリア等の映画祭で上映されています。このとき上映された映画で用いられた映像は、防犯カメラの映像そのものではなく、背景や人物の服装などを大幅に変更しています』とのことであり、“良案”の回答期日には触れられていませんでした。

我々は防犯カメラ映像を使用する際には改変していてもホテルの許諾が必要であると考えており、そのように伝え続けてきました。しかし7月の協議から進展がないまま、“良案”の回答期日すら示してもらえなかったため、伊藤氏側の返事を待っていても現在の問題の映像が海外で上映され続けてしまうと考え、こちらが指摘した問題をクリアして皆が応援できる内容の映画を完成させて欲しいとの思いから会見に臨みました」(佃弁護士)

こうして昨年10月21日の記者会見に至ったのだという。

防犯カメラのイメージ 写真/Shutterstock
防犯カメラのイメージ 写真/Shutterstock

すると会見後、西廣弁護士側には、喜田村弁護士ではなく神原元弁護士、師岡康子弁護士から「伊藤氏側の会見の代理人」としてファクスや内容証明が届いた。

神原・師岡弁護士から届いた内容証明は2枚にわたっており、そこにはホテルの許諾を得るために「防犯カメラ映像を伊藤氏がプライバシーに配慮してCGを使って制作した」ことや「捜査員Aの声を加工・変更して使用している」ことなどが記されていた。

加えて、西廣弁護士が「記者会見において、本件映像の公開に許可が必要であること、本件映像の使用についてホテルの許可を得ていないこと、協議の内容など、職務上知り得た依頼人との秘密を承諾なしに公開している」と指摘した。

これを受け、西廣・佃弁護士は言う。

「どれほど加工していても、誓約書がある限りはホテルの防犯カメラ映像を作品に使うことは誓約書違反となります。そしてホテルは映画への使用は認めていません。ホテル側は、防犯カメラの映像を外に出したこと自体を明らかにして欲しくないのですから、映像に加工をしているかどうかは関係がないのです」(西廣弁護士)

「音声を変えるのであれば、ボイスチェンジャーで変えたりしますが、映画の中の捜査官Aの声は普通の男性の声であり、そういった加工は確認できません。仮に私たちの鑑賞したあのバージョンで音声が加工されているというのであれば、普通の別の男性の声質に変えるという狙いがよく分からないですし、伊藤氏と声が重なるところで、伊藤氏の声が変わっていない。だとしたら彼の声も変わっていないのではと思われます」(佃弁護士)