承諾が取れていないのであれば、人権上問題」

西廣弁護士は『Black Box Diaries』を鑑賞して、大きなショックを受けたと語る。

「私からすると使っちゃいけないものばかりが並んでいる感じですね。本当に自分が暴力を振るわれたような感覚になりました。スターサンズさんには弁護士さんがいらっしゃるので、ファクスの言葉に嘘はないだろうと思っていたのですが、使わない方向で対策するとおっしゃっていたホテルの防犯カメラ映像まで使われていました」

防犯カメラ映像はホテルと誓約書を交わしたうえで、裁判証拠として提供を受けたものであるため、作品で使用する場合は別途、ホテルの許諾を得ることが必要となる。加工がなされていたとしても、それは変わらない。

西廣弁護士はそれだけでなく、本作にタクシードライバーや捜査員Aなどの映像や音声が使用されていたことも問題視している。

タクシードライバーは、2015年当時、伊藤氏と山口氏をホテルまで乗せたときの様子を証言した重要人物であり、捜査員Aは、自らのリスクを顧みず、山口氏の準強姦事件の捜査状況を非公式に伝えてくれた「いわば公益通報者ともいえる」(会見での佃弁護士の発言)人物であるという。

「承諾が取れていないのであれば、人権上問題であり、しかもそれがもはや見逃せるレベルではないと思ったので、ここも直してほしいと伝えた形になりました」

西廣弁護士
西廣弁護士

試写で本作を鑑賞後、西廣弁護士は改めてスターサンズに内容証明を送り、伊藤氏らと協議の場を設け、懸念点を伝えた。2024年7月31日のことだった。

「協議では伊藤氏側は『タクシードライバーは年配だから死んでいるんじゃないか』と言っていました。根拠は不明です。そもそもタクシードライバーは途中から、こちらからの連絡に応答してくれなくなったという経緯もあります。裁判に協力的ではなくなったという印象を抱いていましたので、きちんと許可を得る必要があると感じました。

問題の防犯カメラ映像については『ホテル側は何も言ってこない』と伊藤氏側はおっしゃっていましたが、何も言ってこないから使っていいというわけではありません。

最終的にこの日は、ホテルから許諾を得てほしいと伝え、伊藤氏も、もう一度掛け合ってみると言ってくれました」

この協議を受け、伊藤氏はホテルに再度交渉を行なったという。しかし同年8月27日に伊藤氏から弁護団宛てに「ホテルからは許諾が得られなかった」とメールが届く。そして「新たな映像を制作し、ホテルからもらった映像ではないものを使用する」ことや「映画の中で『映像は防犯カメラを忠実に再現したものです』等の文を入れ、映像はオリジナルのものではないと注記し、公言する」ことを提案された。