中央・東ヨーロッパに女性の科学者やエンジニアが多い?

現在、西ヨーロッパとアメリカ合衆国では、科学、工学、技術の分野に携わる女性の割合が世界最低水準であり、その対策が続けられているが、中央・東ヨーロッパにはそうした問題は存在しない。

国際科学雑誌の「ネイチャー」は2019年、女性が執筆した公表論文の割合から判断すると、中央・東ヨーロッパの大学は、ジェンダーバランスが世界で最も優れていると報告した。ポーランドのルブリン医科大学とグダニスク大学は第1位と第4位だった。ベオグラード大学が第3位に入っている。対照的に、ハーバード大学は第286位、スイス連邦工科大学チューリッヒ校は第807位だった。

ルブリン医科大学
ルブリン医科大学
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旧社会主義諸国には今でも、女性の科学者やエンジニアを普通だと考える文化的遺産が残っている。「女の子がエンジニアになりたいと言っても、おかしいとは思いません。誰もそれを変とは思わないでしょう」とフォドルは言う。彼女の母親は1950年代に、エンジニアになるための訓練を受けていた。ハンガリーの女性たちが技術系の大学で学ぶことを推奨されていた時代だった。

カリフォルニア・ポリテクニック州立大学のコンピューター科学者であるハスミク・ガリビアンは、旧アルメニア・ソビエト社会主義共和国のエレバン国立大学のコンピューターサイエンス学部では、1980年代から90年代まで、女性の割合が75パーセントを下回ることがなかったと書いている。彼女も共著者も「これはタイプミスではありません」と指摘する必要があった。

また、ドイツのボンにある労働経済研究所は2018年、数学の成績のジェンダー格差がドイツ西部よりもドイツ東部のほうが小さいことを示す論文を発表した。1991年以降、旧社会主義諸国は、高校生を対象に毎年開かれる国際数学オリンピックの大会に、他国よりも多くの女子生徒を送り込むようになっていた。

ドイツが再統一されるまで、少女たちは何世代にもわたって、住んでいる場所によって異なる性別ステレオタイプを目にしてきたと研究者らは説明する。

西ドイツでは、男子生徒と女子生徒は学校で同じカリキュラムを受けてさえいなかった。一方、東ドイツでは、1949年から1989年まで、非常に人気のある雑誌だった「ノイエ・ベルリナー・イルストリールテ」に、「ジャーナリスト、教授、准将、工場労働者としてプロフェッショナルに活躍する『解放された』女性」が掲載されていた。

同様に、1990年代初頭に旧ソ連からイスラエルに移住した数千人のユダヤ人移民を対象
とした研究では、この集団の女子高生は、旧ソ連から移住していない家庭の女子高生に比べて、科学、技術、工学、数学を専攻する傾向がはるかに強いことが明らかになった。旧ソ連出身のユダヤ人女性も、現地で生まれたイスラエル人やほかの移民と比べて、フルタイムで働く傾向が強く、科学や工学の分野で働く人も多かった。

#2 に続く

文/アンジェラ・サイニー(訳=道本美穂) 写真/Shutterstock

家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか
アンジェラ・サイニー (著), 道本 美穂 (翻訳)
家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか
2024/10/25
2,530円(税込)
416ページ
ISBN: 978-4087370065

《各界から絶賛の声、多数!》

家父長制は普遍でも不変でもない。
歴史のなかに起源のあるものには、必ず終わりがある。
先史時代から現代まで、最新の知見にもとづいた挑戦の書。
――上野千鶴子氏 (社会学者)

男と女の「当たり前」を疑うことから始まった太古への旅。
あなたの思い込みは根底からくつがえる。
――斎藤美奈子氏 (文芸評論家)

家父長制といえば、 “行き詰まり”か“解放”かという大きな物語で語られがちだ。
しかし、本書は極論に流されることなく、多様な“抵抗”のありかたを
丹念に見ていく誠実な態度で貫かれている。
――小川公代氏 (英文学者)

人類史を支配ありきで語るのはもうやめよう。
歴史的想像力としての女性解放。
――栗原康氏 (政治学者)

《内容紹介》
男はどうして偉そうなのか。
なぜ男性ばかりが社会的地位を独占しているのか。
男が女性を支配する「家父長制」は、人類の始まりから続く不可避なものなのか。

これらの問いに答えるべく、著者は歴史をひもとき、世界各地を訪ねながら、さまざまな家父長制なき社会を掘り下げていく。
丹念な取材によって見えてきたものとは……。
抑圧の真の根源を探りながら、未来の変革と希望へと読者を誘う話題作。

《世界各国で話題沸騰》

WATERSTONES BOOK OF THE YEAR 2023 政治部門受賞作
2023年度オーウェル賞最終候補作

明晰な知性によって、家父長制の概念と歴史を解き明かした、
息をのむほど印象的で刺激的な本だ。
――フィナンシャル・タイムズ

希望に満ちた本である。なぜかといえば、より平等な社会が可能であることを示し、
実際に平等な社会が繁栄していることを教えてくれるからだ。
歴史的にも、現在でも、そしてあらゆる場所で。
――ガーディアン

サイニーは、この議論にきらめく知性を持ち込んでいる。
興味深い情報のかけらを掘り起こし、それらを単純化しすぎずに、
大きな全体像にまとめ上げるのが非常にうまい。
――オブザーバー

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