退職後の進路は、まさかのパン屋
退職後、新たな道として踏み出した先は、まさかのパン屋さんだった。
「ホームレス支援ができなかったのは唯一、心残りではありましたが、『福祉の仕事に就く』という幼い時からの夢は叶ったので、もう一つの夢だった『飲食業界で働く』という夢を叶えたいと思いました」
しかし、パン屋の朝は想像以上に早かった。体力的な面からわずか1年で退職。自分自身を見つめ直し「自分にはやっぱり福祉しかない」と思えた。次は障害のある子どもの放課後デイサービスで働き始めた真由子さん。
一度、別の道に逸れたからこそ、福祉へのやりがいを再認識することができたという。
「改めて福祉の仕事ってすごく楽しいなって実感して、これからの人生、福祉にとことん向き合おうっていう覚悟が決まりました。そんな中で、思い出したのが原点となったホームレス支援への思いでした」
ただ、ホームレスの支援施設は東京や大阪など限られた場所にしかなく、数も少ない。
「いくつか施設はありましたが、規模も小さく、求人がほとんど出ていなかったんです。そんなときに古巣で人事担当をしている元同期から『今、人手が足りなくて“アルムナイ採用” (自社を退職した元社員を再雇用する採用手法)を始めたところなんだけど、もしよければ第1号として応募してみない?』って誘ってもらったんです。
腫物扱いされたらどうしよう…って不安はありましたが、仕事の勝手も分かってるし、融通もきくかなと思いました」
思い切って昨年、アルムナイ採用枠で面接に臨み、見事第1号として昨年春に出戻ることになった真由子さん。配属先は当初から希望していたホームレス支援施設だった。
「もともと働いていた職場だったから即戦力にもなれましたし、配属にあたっては、原因となった職員と別の施設にしてもらったり、配慮していただきました」
実際に戻ってまもなく1年となるが、出戻りしてよかったか、単刀直入に聞いてみたところ、
「戻ってよかったなって心から思ってます!ずっとやりたかった仕事ができているし、遠回りした分、色んな経験値を得ることもできました。どの業界や職場でも合わない人はいると学べましたし、他人と自分の境界線を上手く線引きできるようになりました。
会社側も私含め退職者が相次いだ期間に、管理職が職場改善やアルムナイ採用に力を入れていることを職員から聞き、もう一度信用してもいいのかなと思ったのも大きかったです」
人手不足などを背景に、アルムナイ採用を取り入れる企業が増加する中、出戻り社員をどう定着させていくのかが、今後の課題の一つになるのかもしれない。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部