軍拡競争を引き起こす構図

北朝鮮が良い例でしょう。北朝鮮の真の恐ろしさは軍事力ではなく、行動が予想できないところです。北朝鮮は国の内外に情報をほとんど明かさず、今国内がどんな状況にあるのか、どんな種類の兵器をどれくらい持っているのか、そして金正恩氏が何を考えているのかが判別困難です。

韓国や日本、アメリカは、北朝鮮がいつどんな状況で攻撃してくるのかを予想できません。実際、日本は北朝鮮からいつ飛んでくるかわからないミサイルのために、ミサイル防衛体制を強化したり、敵基地攻撃能力(ミサイルの発射基地を発射前に破壊する能力)を整備したりしています。

しかし、これは軍拡競争を引き起こします。「北朝鮮が本当に攻撃するつもりかどうかはわからないけれど、念のために軍事力を強化しておこう」として、緊張が高まるのです。

中国やロシア、北朝鮮が周辺国に警戒されやすい一因は、この判別性の低さにあります。どの国も独裁体制で情報が公開されないので、意図が曖昧です。

特に北朝鮮は、GDPが鳥取県と同じくらい、核弾頭もたった30発しか持っていない(ロシアは約6000発)にもかかわらず、ロシアと並ぶほど恐れられている理由は、行動があまりにも予想不可能だからです。

一方、アメリカは民主国家なので、大統領の考えはニュースや議会で公開され、国民や他国も知ることができます。これが前者に対して安全保障のジレンマが起きやすく(恐れられやすい)、後者に起きにくい(恐れられにくい)1つの理由です。たとえるなら、包丁を持った常人よりも、フォークを振り回す奇人の方が怖いのと一緒です。

経済力も軍事力もさほど大きくない北朝鮮が、国際社会ではロシアと並ぶほど恐れられている本当の理由_3
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外交そのものも、広い意味でこの曖昧さを減らすための取り組みといえます。お互いの国の事情を打ち明け合うことで、何を意図しているのかを深く理解し合えるからです。

また、G20のような首脳会談が定期的に開かれ、首脳同士がわざわざ親交を深めるのも、それぞれの国の首脳がどんな性格をしていて、どんな考えを持っているのかを深く理解することで、行動をより予想しやすくするためです。

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あの国の本当の思惑を見抜く 地政学
社會部部長
あの国の本当の思惑を見抜く 地政学
2025/1/24
1,980 円(税込)
336ページ
ISBN: 978-4763141880

地形的に見ると、アメリカもロシアも中国も弱い。
だから、戦争をやめられない。


近年、「世界情勢を理解したい」という需要が増えています。
ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル戦争、中国の台湾・尖閣諸島・南シナ海での野心的行動など、ニュースで不安定な国際情勢にまつわる話題を見聞きしない日はありません。

国際政治を考える上で、まず見るべきものは何でしょうか?
歴史、文化、統計、報道——どれも重要です。
しかし、本書はそれが「地理」であると考えます。

ニュースを普段見ていると、外国首脳の発言や人々の意見ばかりが目に入ります。
それらを見ていると、世界情勢を動かしているのは「人間の意志」だとつい思いがちです。
しかし、人間の思考や行動は、私たちが思っている以上に地理に動かされています。
それも、気づかないうちに。

地理を基準に世界を眺めると、次のようなさまざまな事実が見えてきます。

●アメリカは広い海で隔てられるので「攻められづらい」国だが、同時に他国を「攻めづらい」国でもある
●ロシアはヨーロッパの大国と平らな地形で繋がっているせいで、領土を拡大し続けなければならない
●対立を深めるアメリカと中国は、実は国土や隣国との関係など、「似た者同士」である
●日本にとって朝鮮半島はユーラシア大陸との「橋」。朝鮮半島の安全を確保することは伝統的な地政学的課題

寒い場所では、港が流氷で閉ざされて、貿易ができません。
「国を守ろう」と思っても、地形が平坦だとかなり苦労します。
地理が「檻」だとすれば、国は「囚人」です。
囚人に何ができて、何ができないかを知るには、まず檻の形を知らなければならないのです。

本書は、地政学動画において平均再生回数150万回という圧倒的な支持を得る著者・社會部部長が、不変の地政学の法則を解説する1冊。
「海と陸」というシンプルな切り口を中心に、これまで世界で起きてきたことの真の理由を知り、今の世界で起きていることを「自分の頭で考えられるようになる」本です。

【目次より】
序章 今、地政学を学ぶ意義
第1章 アメリカ 強そうで弱い国
第2章 ロシア 平野に呪われた国
第3章 中国 海洋国家になろうとする大陸国家
第4章 日本 大陸国家になろうとした海洋国家
終章 地政学から学べること

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