700万円の赤字を用意してくれた吉本社員の存在
––––独立を決断した一番大きなきっかけは、何だったのでしょう?
退所を決意したのは、今年の3月です。理由は2つあって……。
1つは、2018年にピン芸人10周年を記念した自主イベント『ザ・ミュージカルマン』を企画しまして。そのイベントでは、TERU(GLAY)さんや山崎まさよしさん、清水翔太さんといった錚々たる方々にご出演していただいたんです。
一方で、今まで単独ライブの予算が20万円くらいだったところ、1500万円ほどかかることになってしまって。チケットは全部売れたんですが、700万円程度赤字が出てしまったんですよ。
で、僕は「やりたかったことなんで、借金してでも払います」と言ったんです。そうしたら、とある吉本の社員さんが「手伝えることあるなら、入らせてくれ」と間に入ってくれて。イベントを取り仕切っている人に「あとは僕が全部やるので、もうエハラにお金の話はしないでください」って言ってくれたんですよ。それでスポンサーを探してきてくれて、2日後に700万円振り込んでくれたんです。
そのとき、僕は「こんな社員さんがおるんや」とすごく感動して。「絶対に恩返しせなアカン」と、10倍の金額を返すまではやめないって決めたんです。それを果たしたので、やめることを決めました。
––––もう1つの理由は?
これは、ちょっと笑い話のようなものなんですが……。
3年くらい前、当時担当だったマネージャーに「キミが担当を外れたら、俺、吉本やめるわ」と言っていて。いざ担当を外れるタイミングで、その子が「これでエハラさんが思い止まるかわからないんですが……エハラさん、グリーン車になりました」って言ってきたんです(笑)。
––––吉本芸人でグリーン車を使えるようになるのは、かなり難しいんですよね?
そうなんですよ。だから僕も「めっちゃ頑張ってくれたんやろな。これはやめるわけにはいかへんな」と退所を思い止まったんです。
でも、それから移動が全然なくて、グリーン車に乗る機会もなかったんですが……今年の最初に久しぶりにミュージカル公演で福岡に行ったら、飛行機がエコノミーだったんです。
それで社員さんに「俺、ランクアップしたはずなんやけど」と聞いたら、「いや、吉本内の仕事はすべてグリーン車、飛行機はファーストクラスに変わるんですけど、外注のお仕事の際は先方がチケットを手配していて。『エハラさんはグリーン車』とお知らせしていますけど、それで無理だったら無理なんですよ」と。
僕はもう吉本の仕事をしていなかったので、グリーン車のために一生懸命頑張ってくれたマネージャーの顔を立てる必要はもうなくなったかなと思って退所を決めました(笑)。
––––そういう出来事が起こりつつも、円満に退所されているんですよね?
めちゃくちゃ円満ですね! これまでの活動の件もあったので、わだかまりもなく、「エハラさんのやりたいように」という形で送り出してくれましたよ。
#2「尊敬する2人の芸人」へつづく
取材・文/毛内達大 撮影/集英社オンライン編集部
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エハラマサヒロ●1982年5月29日、大阪府生まれ。2009年、「R-1ぐらんぷり」決勝初進出にして準優勝。歌、モノマネ、ダンスなどマルチな才能を武器に、2017年には「ものまね王座決定戦」で優勝。「パフォーマンスZ」(TBS)、「バカソウル」(テレビ東京)などバラエティ番組で活躍する。
2012年以降、「ウィズ~オズの魔法使い~」「ファントム」など人気ミュージカルに多数出演。2018年からはピン芸人10周年を記念した自主イベント「ザ・ミュージカルマン」で歌、ダンス、ヒューマンビートボックス、モノマネ、コントなど独自のステージを展開。2024年12月からは吉本興業を退所して個人で活動をスタートした。