全国で開示請求されたもののうち、およそ半数が「黒塗り・非開示」

和歌山市以外の自治体ではどうなのか。調べてみると、実に、興味深いことが判明した。

総務省が2018年3月に発表した「情報公開条例等の制定・運用状況に関する調査結果」によると、情報公開の請求権者として認めている者の範囲について「制限なし」、つまり「なんぴとも開示請求できる」としている市区町村は、全体の52.6%であることが判明。

逆からみれば、残り47.4%の市区町村は、和歌山市と同じく、在住・在勤者などに限定していることになる。

そうしてみると、意外に在住・在勤者などに対象を限定している自治体が多いと思われたかもしれないが、これが政令指定都市だけに限定すると「制限なし」が100%となり、すべての政令指定都市は「なんぴとでも開示請求できる」となっている。

また、都道府県単位でみても「制限なし」は95.7%となっていて、人口の多い都市部および都道府県単位では、国籍、住所などの属性に関係なく「なんぴとでも開示請求できる」ようになっていることがわかる。

写真はイメージです
写真はイメージです

ところが、和歌山市のように政令指定都市ではない県庁所在地になると、とたんに開示請求者を在住・在勤者などに限定する自治体がゾロゾロと出てくるのが不思議だ。

実施状況はどうなっているのだろうか。情報公開についての総務省の調査をさらに詳しくみていくと、全国の市区町村で情報公開請求された14万5604件中、14万1010件が開示されている(【図表1】)。

【図表1】市民からの情報公開請求を受けて、全国の自治体が「開示」または「非開示」とした件数(総務省が2018年3月に発表した「情報公開条例等の制定・運用状況に関する調査結果」から該当データを抜粋し、筆者作成)。開示件数の内訳(「全部開示」か「一部開示」か)は、1件の請求に対して複数の開示が行われたケースもあるほか、開示件数のみを回答した自治体があったため、構成比の合計が100%にならない。なお、「不在住等」とは、請求された内容の文書が「不存在」である場合や、開示対象者ではないとして開示に応じなかった場合など、「非開示」以外の理由で開示されなかった件数のこと。『「黒塗り公文書」の闇を暴く』より
【図表1】市民からの情報公開請求を受けて、全国の自治体が「開示」または「非開示」とした件数(総務省が2018年3月に発表した「情報公開条例等の制定・運用状況に関する調査結果」から該当データを抜粋し、筆者作成)。開示件数の内訳(「全部開示」か「一部開示」か)は、1件の請求に対して複数の開示が行われたケースもあるほか、開示件数のみを回答した自治体があったため、構成比の合計が100%にならない。なお、「不在住等」とは、請求された内容の文書が「不存在」である場合や、開示対象者ではないとして開示に応じなかった場合など、「非開示」以外の理由で開示されなかった件数のこと。『「黒塗り公文書」の闇を暴く』より
すべての画像を見る

そのうち、「全部開示」は8万2802件で、単純な構成比でみると、開示全体の6割弱が問題なく開示されていることになる。黒塗りが含まれると思われる「一部開示」は5万7444件と開示数の4割もある。

いわゆる「黒塗り」は「一部開示」に該当するため、それが約4割に該当する件数もあるとすれば、情報公開が円滑に機能しているとは言い難いだろう。

政令指定都市の調査結果をみると、情報公開請求されたのが4万3217件であるのに対し、開示が4万8080件(1件の情報公開請求につき複数の開示が行われることがあるため、請求件数よりも開示件数が多くなっている)。

開示された4万8080件のうち、「全部開示」は2万9372件と、こちらは6割強。「一部開示」は1万8168件の4割弱となっていて、市区町村よりも全部開示される率はやや高い傾向がみてとれる。

また、情報公開請求全体に対する「非開示」の件数をみていくと、市区町村は、14万5604件中2793件と、2%程度。

それに対して、政令指定都市では、4万3217件の情報公開請求に対して「非開示」は2322件と、5%強である。

そうしたなかで、いちばんの驚きなのが、不服の申し立てを行う審査請求の少なさだ。市区町村では、審査請求までに至るケースは、747件しかない。情報公開請求全体(14万5604件)の1%にも満たない。

政令指定都市でも、情報公開請求4万3217件のうち、審査請求は1100件と少し多くなるものの、それでも2.5%程度しかなく、ほとんどの請求者は、不服を申し立てることなく、一度の開示だけで完結している実態が浮かび上がってくる。

なお、1件の情報公開請求につき複数の開示が行われることがあるため、この調査結果をもってして、単純に、開示率が9割以上あるとはいえない。

また、開示件数に占める「全部開示」と「一部開示」の割合についてはある程度実態に即したものであるといえるものの、こちらも回答した自治体が「開示件数」のみ回答し、その内訳については回答していないケースがあるなど、それぞれを足しても構成比が100%にはならない。これらのことから、おおまかな傾向をつかむ程度のデータであることは理解しておきたい。

文/日向咲嗣 サムネイル/Shutterstock

『「黒塗り公文書」の闇を暴く』 (朝日新書)
日向 咲嗣 (著)
『「黒塗り公文書」の闇を暴く』 (朝日新書)
2024/10/11
990円(税込)
264ページ
ISBN: 978-4022952868

情報開示された約1400枚もの公文書。
じつに、その92%が真っ黒に塗りつぶされていた……。


モリカケ、桜を見る会、ウィシュマさん死亡事件など、
国政で大きく騒がれた「黒塗り公文書」が、
いまや地方自治の現場でも日常的に作成され、あたり前のように提示されている。

「民間でできることは民間に」の掛け声のもと、
全国の公共施設の運営が次々と民間委託される一方、
公文書が黒塗りで情報開示される事態が多発しているのだ。

市民が開示を求めた情報をどうして行政は黒塗りにするのか、
なぜ許されるのか? 

黒塗りで隠された官民連携の実態に迫る!

amazon