「団地物語の巻」(ジャンプ・コミックス192巻収録)

今回は、日本の高度成長期のシンボルのひとつだった「団地」と、そこに現れた老人にまつわるお話をお届けする。

団地は、戦後の住宅不足と高度経済成長期、ベビーブームなどの後押しにより、昭和30年代から40年代にかけて盛んに建築された集合住宅だ。

鉄筋コンクリート製の建物に目的の分かれた複数の部屋(ちゃぶ台を広げて食卓とし、夜は同じ部屋に布団を敷いて寝るのが当たり前の時代だった……)で食事をし、キッチンや水洗式のトイレ、内風呂……など、当最新の生活様式を送れる、憧れの住居だったのだ。

だが昭和60年代には、人口の減少、建物の老朽化、生活スタイルの変化により、衰退期を迎えた。もっとも近年では、団地をリノベーションしての再活用も行われているようだ。

東京タワー、おばけ煙突で知られた千住の火力発電所、デパートの屋上……など、『こち亀』では「懐かしき昭和」を象徴する建築物がたびたび描かれてきた。

だが、それらよりずっとありふれた風景だった団地を舞台にしたエピソードは、意外と少ない。本作以外だと、超神田寿司の娘・レモンが、親が共働きで幼い弟の面倒を見ながら団地に住まう少女と出会う「レモンの逃亡の巻」(ジャンプ・コミックス193巻収録)くらいではないだろうか。

本作が描かれたのは2013年、「レモンの逃亡の巻」は2014年だ。昭和後半のシンボル的な舞台である団地にまつわるお話が平成の終わり近くに描かれたのは、興味深い。

「レモンの逃亡の巻」より
「レモンの逃亡の巻」より

それでは次のページから、『こち亀』には珍しい、ちょっと不思議な読後感を味わえるお話をご堪能ください!!